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国外転出時課税制度の直近の適用状況 贈与・相続の猶予税額が増える

2025.12.11

国税庁の開示資料によると、贈与と相続に係る国外転出時課税の納税猶予制度の猶予税額が、令和6年7月1日から令和7年6月末まで(令和6事務年度といいます。)の1年間に増加したことがわかりました。

贈与の場面では、新規の6件増加した一方、約3億円分の課税の取消しなどがあったため、令和7年6月末時点の継続管理件数は33件にとどまりました。しかし猶予税額は前事務年度約6.4億円に比べおよそ2.7倍の約14億7千万円を記録しました。

また相続の場面でも、猶予の打切り事案もありましたが、新規件数が7件と伸びたこともあり、令和7年6月末時点の継続管理件数は12件と増加、これに伴い猶予税額も前事務年度の約4.5億円から約17億6千万円に増加しています。

なお所得税の出国に係る国外転出時課税の納税猶予制度の猶予の令和7年6月末時点の継続管理件数は277件を記録したものの、約8億円分の猶予の打切りや約189億円分の課税の取消があったため猶予税額は約1,460億円にとどまり前事務年度より減少しています。

国外転出時課税制度とは、一定の有価証券の売却益の課税逃れを防止するため生まれた制度。

国内で行われる有価証券の売買なら本来その譲渡益に対して課税されます。
しかし有価証券の譲渡益に対し非課税としている外国へ出て、そこで有価証券を売却するなどして譲渡益に対する課税を逃れる事例が見られたことから、国際的な協調でこれを防ぐために新たに作られました。

具体的には、合計で1億円以上の所定の有価証券等を保有する資産家が対象者となる税制です。
課税が問題になる場面は、次の3場面です。

①居住者が、国外へ出て国内に住所が無くなる(いわゆる出国)場合
②居住者の保有する有価証券等を国外にいる子弟等(非居住者の親族等)へ贈与する場合
③居住者の死亡で有価証券等が国外にいる子弟等(非居住者の親族等)に相続・遺贈される場合

この時、保有する有価証券等の譲渡があったものとしてその含み益に譲渡所得税が有価証券等の保有者である居住者または被相続人に課税されるものです。

このため、納税猶予の制度が設けられています。猶予期間は5年間で延長の届出をすると最高出10年間、猶予できます。
たとえば資産家本人が国外転出する場合、出国するまでに「納税管理人」を決めて税務当局に届出をしておくと、国外転出時課税制度で負担すべき税額の納税を猶予する制度が利用できる仕組みです。

[ 遠藤 純一 ]

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