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同族法人への店舗貸付めぐり税金トラブル 業績悪化で家賃免除も経理処理怠り相続税で損

2025.05.26

不動産オーナーと同オーナーが取締役を務める同族会社との間で貸店舗の賃貸借を巡って税金トラブルの情報が出てきました。

トラブルのもとになったのは、貸主の被相続人の方では家賃を免除するも、所得税計算上賃料収入の計上はまったくしておらず、借主の同族法人の方では支払賃料と未払賃料の債務免除益を記帳していなかったこと。

このため不動産オーナーの相続税の申告に当たり、貸店舗の家屋とその敷地について貸家・貸家建付地として評価額の減額が税務署から否認されたというのです(国税不服審判所(以下、審判所という。)令和6年9月17日裁決)。

貸家の相続税評価は3割減、貸家建付地は借地権割合60%のところで18%減となるものです。

審判所が出した裁決書によると事案の概要は次のとおりです。
・被相続人の所有する店舗は3階建ての建物で、平成11年1月1日から平成13年12月31日までの期間、被相続人が取締役を務める同族法人に月額50万円で貸付ける契約をした。
・被相続人の相続開始時期を含む平成31年分の所得税青色申告決算書には同族法人からの賃料収入があった旨の記載はない。
・相続人は上記店舗の家屋とその敷地について貸家・貸家建付地として評価し、令和2年2月に相続税申告をしたものの税務署から否認された。
・このため相続人は審判所の審査請求に及んだ。
 
相続人は次のように貸家・貸家建付地として減額を認めるよう主張しました。 
・平成20年以降、同族法人の経営状況の悪化に伴い賃料を免除し、相続開始日時点では家賃の授受はなかったが、同族法人が賃借し、かつ、使用収益していたことに変わりはなく、本件賃貸借契約も終了していない。したがって、土地及び家屋は、家屋の賃貸割合により貸家建付地及び 貸家として評価すべき。

審判所は次のとおり、事実を確認しました。①本件家屋に係る賃料について、平成31年において賃料の支払の事実は認められないこと。②同族法人は、平成30年9月1日から令和元年8月31日までの事業年度において、本件家屋に係る支払賃借料を計上していないこと。

このことを踏まえ審判所は「被相続人は、相続開始日において、本件家屋の一部を同族法人に対して賃貸借契約に基づき賃貸していたとは認められない」と判断しました。
その理由として審判所は「評価通達に定める貸家とは、現に賃貸借契約の目的となっている家屋をいうものと解すべきである」からです。
結論として国税不服審判所は「貸家建付地及び貸家として評価すべきではない」と判断しました。
つまり上記の認定は、関係の濃いオーナーと同族法人の間の貸借は、実質的に使用貸借と見たのではないかと推測されます。

過去の審判所の裁決事例でも、オーナーとその同族会社間の不動産賃貸借で、契約書が作成されていないことや賃料が不払い、支払いがあっても固定資産税等の金額ほどの場合は、評価減のできない「使用貸借」と認定されたケースが見られます。

契約のメンテナンスは疎かにしないことが重要です。
その際は税理士や不動産の専門家に相談することをお勧めします。

[ 遠藤 純一 ]

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