賃貸住宅の相続税評価、不動産業者の内見があっても 契約ナシなら空室認定の事例
賃貸集合住宅の敷地と建物の相続税評価は、空室がなければ貸家・貸家建付地として減額が認められています。国税庁の財産評価基本通達によると、次のような計算式で求めることとされています。
●貸家の敷地の相続税評価額
自用地の評価額-(自用地の評価額×その地域の借地権割合×借家権割合×賃貸割合)(財産評価基本通達26)。
●貸家の建物の評価額
その貸家の家屋の固定資産税評価額-(同家屋の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)(財産評価基本通達93)。
賃貸割合とは、相続開始時点で、賃貸住戸の床面積の合計に対する空室の床面積の割合のこと。
たまたま空室であっても賃貸されているものと同視できる場合には、賃貸されている1室に含められる例外的な取扱いもあります。
このため納税者と税務署間で争いが起きやすいところですが、最近でも次のような事例が出てきました。
賃貸集合住宅の空室について不動産業者の賃借希望者の内見が複数あっても契約がなければ空室とされ、減額が認められなかった事例です(国税不服審判所、令和6年9月17日裁決)。
裁決書によると、問題になったのは50平米弱の独立した住戸が13戸ある賃貸集合住宅の1室で、相続開始時点で空室でした。また相続開始時点を跨ぐ平成30年9月28日から令和2年1月17日まで空室だったことです。
この1室をめぐって上記の貸家・貸家建付地の評価減の適用があるかどうかで、争いとなったものです。
相続人は国税不服審判所(以下、審判所という。)への審査請求で次のように主張しました。
①入居者が退室してから不動産業者により入居者を募集し、複数の不動産業者から44件の問合わせがあり、16件の内見に応じていた。
②それにもかかわらずコロナ禍による外出自粛期間中という要因もあり、入居者が決まらなかっただけであり、たまたま空室だからといって賃貸されている住戸に該当しないとはいえない。
しかし審判所は、問題の空室期間が「平成30年9月28日から令和2年1月17日までの約1年3か月もの期間に及んでおり、また、本件空室の賃貸借契約が本件相続開始日前に終了した後も引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在したにもかかわらず賃貸借終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されなかったことについての合理的な理由が存在したなどといった事情もうかがわれない。(中略)募集をしていたにもかかわらず1年3か月も賃貸されなかったとみるべきであることを併せ考えると、上記
の合理的な理由は存在しなかった」と認定。
これを踏まえ、審判所は「相続開始日前後の賃貸状況等に照らし実質的にみて課税時期である本件相続開始日に賃貸されていたと同視し得るとはいえない」として、上記取扱いによる減額の適用を認めませんでした。
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