土地をビルごと買って再開発する場合 建物の除却費用が土地の取得価額になるケース
土地建物を買って建物を建て替え投資を行う場合には、注意しなければならないことがあります。
それは、取り壊した建物の価額や取壊費用が土地の取得価額になるケースがあるからです。
たとえば法人税の取扱いでは土地と建物を「取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」は、建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額を土地の取得価額に算入する(法人税基本通達7-3-6)。
所得税にも同様の取扱いがあります(所得税基本通達38-1)。
実は最近、上記の税務上の取扱いを巡って争いとなった裁判がありました。都心の約1,200平米の土地と延床面積約4,700平米の建物を一括して買い取り、建物だけを売主に1年3か月間リースバックしたあと、ホテルに建て直したケースです。
この事業を行ったA社が賃貸期間中の減価償却費を除いた建物の帳簿価格などを除却損として損金処理したところ、税務署から「その除却損等は土地の取得価額に算入すべき」として法人税の追徴を受けたことから、A社が出訴したものです(東京地裁令和6年11月13日判決)。
争点は、建物を売主に1年3か月リースバックした事実があるのに、法人税基本通達で「当初からその建物等を取り壊して土地を利用することが明らか」として、追徴がなされたことが違法かどうかという点です。
裁判所の判断のポイントは、次のとおりです。
①建物を取り壊して土地を利用するためであることが明らかと認められるか否かについて「土地建物の取得に至る経緯、建物の客観的状況、取得後の当該建物の利用状況、当該建物の取壊しの時期、経緯及び目的等の諸事情を総合的に考慮して判断を踏まえた上で、かかる事情を考慮要素の一つである「取得後の当該建物の利用状況」として評価するのが相当」
②上記目的の有無の判断について、「当該士地建物の所有権移転時を基準とするのが相当」
上記を踏まえ、裁判所は次の事実関係などを指摘しました。
1,入札に際して、A社はホテルを新築した場合何室得られるかの試算を業者に依頼していたこと。
2,売主は、この不動産の明渡し後に近隣において健康診査事業を行う予定であり、しかも、この建物において売主の事業と競業する事業が行われることとを懸念したため、A社は、売買契約において、「建物は、解体もしくは改装してホテルおよびその付属設備として利用」と明記。
3,A社が融資に当たって、土地及び隣地にそれぞれホテルを新築する場合の向こう15年間の収支見込み額等を記載した事業計画書を提出した。金融機関は、ホテルの新築案件として審査し、融資を実行した。
裁判所は、上記からA社が一貫してホテルを新築することを前提に行動し、「賃貸借契約の事業性に着目して売買契約を締結したとは認められない」と指摘し、最終的に裁判所は、A社が「不動産の所有権を取得した平成28年9月30日の時点において、建物を取り壊して土地上にホテルを新築することを決め、不動産の取得の目的が建物を取り壊して土地を利用するためであったこと明らかであると認められる。」として税務署の処分を支持しています。
建替えを伴う不動産投資では注意したいところです。
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