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居住地から被相続人を引き取り介護に迫られた結果 審判所、空き家譲渡特例適用認めず

2025.01.16

「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下、「空き家特例」といいます。)の適用を巡る国税不服審判所(以下、審判所という。)の新たな裁決が明らかになりました(令和5年11月12日)。

空き家特例は、親が住んでいて、相続で空き家になった住宅を相続人が売却した場合、一定要件を満たしたときに譲渡所得から最大3,000万円(令和6年1月1日以後、相続人が3人以上の場合には、2,000万円)の控除が認められる譲渡所得課税の特例です。

裁決書によると、トラブルになったのは、被相続人が亡くなる前に要介護4認定を受けていたものの、所定の介護施設に入所が果たせず、相続人が引き取って介護する必要に迫られ、いったん被相続人の居住地を離れたことが発端です。
というのも、空き家特例は、対象となる土地・家屋が原則として「相続開始直前まで被相続人が住んでいたこと」、それが適用要件の1つだからです。

ただし、被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続の開始の直前まで老人ホーム等に入所をしていた場合には、特定事由があるものとして介護施設等に移る直前の土地・家屋も特例の対象とされています。

しかし新たな事例では、介護施設が見つかるまで被相続人の住宅を離れています。このため争点は、被相続人の住宅が空き家特例の対象となるかどうかが争点となります。
新たな事例の概要を整理します。

①要介護4認定を受けた母(被相続人)が相続人の父により被相続人の住宅で介護を受けていた。

②しかし相続人の父が亡くなり、相続人が被相続人の住宅に泊りがけで介護していたが、相続人家族の事情で昼夜問わず介護できなかった。

③介護施設が見つかるまで相続人が引き取り、その場所で介護するため、被相続人の住民票を移し、居宅介護住宅改修費を受給し家屋を改修、相続人はここで約4か月弱、被相続人を介護した。

④その後、介護施設が見つかり、被相続人を入居させた。

⑤被相続人の死亡後、令和3年に相続人は被相続人の家屋を取り壊し譲渡するとともに、空き家特例の適用をして譲渡所得の申告を法定期限までに行った。ただし、被相続人居住用家屋等確認書は添付されず、その事情をしたためた書面を提出していたが、確認書自体の提出はなかった。

⑥令和4年に税務署は空き家特例の適用はないとして所得税の増額更正処分を行った。

審判所は、被相続人の住宅が空き家特例の対象になるかどうかについて、次のことを指摘しました。

A、相続人の引き取り先で被相続人が介護を受けて生活していたこと、
B、被相続人の住宅の方は被相続人の家財置場等としで使用されており、受入先の介護施設が見つかるまでの間に、被相続人が再びこの住宅で介護を受けつつ居住して生活する具体的な予定があったことをうかがわせる事情や証拠も見当たらないこと

審判所はこれを踏まえ、介護施設に入居した直前に本件被相続人が居住していなかった住宅については、空き家特例の対象にならないと判断しています。

また、譲渡所得の申告に当たり被相続人居住用家屋等確認書が提出されていなかった点について、審判所は法令で「添付がなかったことにっいてやむを得ない事情があると認めるときは、提出があった場合」に限り適用する旨規定していると指摘、提出がないこの事例については適用はないとしています。

[ 遠藤 純一 ]

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