建物引渡し前なのに固定資産税等でトラブル 年末挟むケースは賦課にご用心
新築建物の引渡しを翌年に控え建物の表題登記をする段取りを進めたところ、年内に登記が完了し引渡し前の1月1日時点で建物を所有したとして扱われてしまい、思いがけず固定資産税・都市計画税(以下固定資産税等という)が賦課され、納税者が困惑するケースが出てきました(東京都裁決令和6年3月14日)。
裁決書によると、令和3年末にAさんは事務所・店舗の新築を進めていました。おそらく工事代金の支払いを受ける施工業者や融資する金融機関からの要請もあったのでしょう、引渡し予定が翌年でも建物表示登記は先に済ませる段取りを進めました。
その結果、建物の表題登記は年内に完了。Aさんは翌年(令和4年)1月に引渡しを受けてから使用開始していました。
ところが4月になって、すでに登記所の上記表題登記があった旨の通知を受けていた都税事務所から、新築家屋を固定資産税評価するための資料を借りたい旨の連絡を受け、Aさんは、工事請負契約書等を提出しました。
都税サイドはその後6月に建物の評価額を決定し、7月に令和4年度の固定資産税等の納税通知書をAさんに送りました。
建物の引渡しが年明けだったので、Aさんは固定資産税等の負担は令和5年度からだと思っていました。
しかも、消防検査が済んだのは表題登記完了後、また建物の建築確認検査では年明けになって検査済証がもらえた状況でした。このためAさんは、建物がまだ「その目的とする用途に供し得る状態」ではないから、令和4年度分の固定資産税等の課税を不服として、行政不服審査法上の審査請求に及んだのです。
審査した東京都の審査庁は、地方税法341条3を受けた取扱いにおいて「固定資産税における家屋とは、原則として、不動産登記規則111条により認定するものであるとし、同条は、建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない」と規定されていることを確認。
また審査庁は、「地方税法の施行に関する取扱いについて(市町村税関係)」(平成22年4月1日付総税市第16号総務大臣通知)第3章・第1節・第1・2によれば、家屋とは不動産登記法の建物とその意義を同じくするものであり、したがって登記簿に登記されるべき建物をいうもの」とされていると説明。
さらに審査庁は、地方税法では「固定資産税につきいわゆる台帳課税主義を採用し、家屋については、第一次的に建物登記簿の登記によって納税義務者たる所有者を把握する(最高裁判所第二小法廷昭和59年12月7日判決)」とされていることも示しました。
上記を受けて審査庁は、問題の「家屋が令和3年12月16日に新築されたとの登記がされたことから、令和4年1月1日現在、家屋について固定資産税の課税客体たる家屋であると認定したことが認められる」。結論として「たとえ確認検査機関の検査済証が発行されていなかったとしても「一連の新築工事が完了した家屋」であると認められることとなり、本件家屋は、その使用状況にかかわらず、本件賦課期日(令和4年1月1日)時点で固定資産税等の課税客体である「家屋」として認定されるべきものである。そして、本件家屋を固定資産税等の課税客体として認定した後の手続に不適切な点は認められない」と判断、固定資産税等の賦課を支持しています。
何をもって建物の完成とするかは、不動産登記規則に依拠し、登記官が認定することになっています。建物が完成されていないと認定されれば、登記申請は取り下げとなるはずです。
引渡し前に建物表題登記をするケースは、融資実行や所有権保存、抵当権設定登記などの手続きを一挙に進めるなどのために行われがちです。こうしたことが1月1日を跨ぐように行われる場合には、不動産登記規則の建物認定基準に依拠し課税客体としての建物を把握する固定資産税等には注意が必要です。
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