*会社が約81億円を同族経営陣から超低利借入 審判所、行為計算否認規定による税務署の利息再計算を支持
同族会社が株主である経営陣から借り入れた約81億円の利息について、税務署が「貸付利率が著しく低い」として、適正な利率で利息を再計算し経営陣に所得税を追徴したことから、争いとなった事案が最近明かになりました(国税不服審判所 令和6年5月15日裁決)。
これは、「伝家の宝刀」と言われる「同族会社等の行為又は計算の否認等(所得税法第157条)」の適用を巡る事案です。
この法律は、税務署長が同族会社の行為又は計算について、これを容認した場合にはその株主等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときに発動するという制度を定めたものです。
その特徴は、株主等の所得税の更正などをする場合には、その行為や計算にかかわらず、税務署長が認めるところにより、所得税の額等を計算することができるとされているところです。
問われるのは、同族会社と株主等の取引が経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、経済的合理性を欠くものであり、株主等の所得税の負担を減少させる結果となるものかどうかという点です。
明かになった事案の取引等の概要は次のとおりです。
- 会社は同社代表者ら株主に出していた社債を償還した。税制改正で同族会社が発行する一定の社債等の利息について、所得税の源泉徴収で済んでいた課税関係が平成28年から総合課税になるタイミングだった。
- 同時に株主らとの間で償還金とほぼ同額の約81億円を銀行の預入期間1年の大口定期預金程度の低金利、無担保で、弁済期はいつでも可とする消費貸借契約を締結した。
- 税務署は、所得税法157条を適用し、日本銀行が公表する平成28年から令和2年までの各年の8月における国内銀行の新規貸出しかつ長期貸出しの「貸出約定平均金利」で利息を再計算して、株主らの所得税を増額更正等した。
争点は、上記の消費貸借を容認した場合に、請求人である株主らの所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か。
国税不服審判所(以下、審判所という。)はまず、所得税法157条の適用に当たり問題の行為又は計算が経済的合理性を欠くと評価される場合とは何かについて、「行為又は計算が、独立当事者間の通常の取引との比較において異常又は変則的であり、かつ、当該行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由や目的があったとは認められない場合」との考え方を示しました。
その上で審判所は、問題の消費貸借につき「弁済期限を定めず、無担保で貸し付けること自体、独立当事者間の通常の取引においては極めて異常又は変則的」と認定、金利については「平成28年から令和2年までの各年8月の貸出約定平均金利は、0.791パーセントから0.885バーセントまでの間」だったのに比べ、問題の利率は「貸出約定平均金利の約100分の1又は約500分の1にすぎず、著しく低い利率」だとして異常又は変則的な取引と認定しました。
一方、会社の経済的状態について審判所は債務超過ではなかったこと等を指摘、「消費貸借の実行前後を通じて、資金繰りに窮するような状態であったということはできない」から著しく低い利率で、弁済期を定めず、無担保で同社に貸し付ける「合理的な理由や必要性があったとは考え難い」として、問題の消費貸借が経済的合理性を欠くものとしました。
さらに審判所は、社債では高い利率で株主らに利息を支払っていたのに、税制改正を契機として社債償還するなど取引を見直し、低利借入にしたことは「所得税の負担の増加を回避することを主たる目的として行われたものであると推認することができる」と断じました。
審判所は最終的にこの取引について「所得税の負担も減少させる結果となっている」として「同族会社等の行為又は計算の否認等(所得税法第157条)」の適用を認め、税務署の更正処分等を支持する判断を下しています。
類似する事案では平和事件が有名です。この事件は、株主が保有する同族会社の株式を同族有限会社に買わせるため、その有限会社に約3,400億円もの無利息貸付をして、税務当局から利息収入を認定された事案です。
最高裁は、会社を救済する必要性など、「無利息貸付に合理性があると推認できる特段の事情」が認められず、独立当事者間で行われる有利息消費貸借と比べて受け取れる利息相当額は減少したとして、税務署の更正処分等を支持していました(最高裁平成16年7月20日判決)。
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