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相続時精算課税で相続時に加算されるのは、申告しなかった財産も

2024.05.13

相続時精算課税制度は、特定の親から子・祖父母から孫の間で、財産の贈与時には相続時精算課税に係る贈与税を納付し、その後、その贈与をした親や祖父母の相続開始時には、相続時精算課税で贈与を受けた財産を、相続又は遺贈により取得した財産に加算をし、その合計価を基に計算した相続税額から既に支払った相続時精算課税に係る贈与税類を控除した金額を納付する(贈与税額が相続税額を上回る場合には還付を受ける)ことにより贈与税、相続税を通じた納税をすることができる制度です。

令和6年からは同制度に基礎控除110万円が創設され、話題になっています。

こうした中、相続時精算課税制度の届出以後に、実質的に贈与されたけれど申告を忘れてしまった財産でも、期限の到来で贈与税の課税権が消滅してしまったら、相続財産に加算しなくてもよいのかどうかについて、争われた裁決がありました(国税不服審判所令和 5年6月27日)。

国税不服審判所(以下、審判所という。)は、法令上、相続時精算課税制度で相続税の課税価格への加算の対象となる財産について「贈与税が課されているかどうかを問わない」とした上で、「贈与により取得した財産に係る贈与税について更正又は決定をすることができる期間を経過して課税権が消滅したものを除く旨の法令の規定も存在しない」とする判断を見せています。

争いとなった事案は、次のとおりです。

1、平成21年に被相続人となる親は子2人に金融資産を贈与し、贈与税申告に当たり相続時精算課税の選択届出書を提出した。

2、同年、親が保有する土地に子2人が建物を建てるために、親子間で借地権設定契約をし、地代の支払いを開始した。借地権の設定に際し、親子間で権利金その他のー時金の授受はなかった。

3、借地権の設定された土地は、借地権の設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域にあった。

4、子2人は、平成21年中に、親から借地権の価額(約4,600万円)のうち2分の1に相当する金額を、それぞれ贈与により取得したものとみなされることとなった。子2人は、同みなし贈与に係る贈与税の申告をしていない。

5、相続時精算課税の贈与者である親の相続に際し、子2人は親の土地(借地権価額を控除した底地)を相続し、申告期限までに相続税の申告をした。

6、税務署は、相続税の計算で借地権価額を加算し更正処分した。これに相続人である子2人が審判所に審査請求した。

子2人は審判所で、おおむね次のように主張しました。

ア、相続時精算課税を規定した相続税法第21条の15第1項は、相続税の課税価格に加算される贈与により 取得した財産について、加算の期間及び対象となるものを明確に規定しておらず、本件通達(相続税法基本通達21の15-1、筆者注)においても、加算の期間について具体的期間は明記されていない。

イ、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》などの規定により課税権が消滅して納税義務のない贈与税を新たに相続税の名目で課税することはできない。

ウ、相続時精算課税で相続税の課税価格に加算されるのは、相続時績算課税選択届出書の提出年分以後に贈与税の申告がされている財産及び申告がされていない財産のうち贈与税の課税権が消滅していないものの価額に限られる。

しかし審判所は、法令解釈について次のように述べました。
「相続税法第21条の15第1項の規定による相続税の謀税価格への加算の対象となる財産は、相続時精算課税選択届出書の提出に係る財産の贈与を受けた年以後の年に、特定贈与者からの与により取得した財産のうち、同法第21条の3などの規定の適用により贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されないもの以外の全てのものであり、贈与税が課されているかどうかを問わないものと解される」
 
これを踏まえ、審判所は、「被相続人から平成21年中に本件借地権の価額のうち2分の1に相当する金額についてそれぞれ贈与により取得したものとみなされており、当該各金額は、請求人らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されることから、当該各金額は請求人らの本件相続税の課税価格に加算される」と判断しました。

また審判所は「相続税法第21条の15第1項の規定による相続税の課税価格への加算の対象となる財産について贈与税が課されているかどうかを問わない」ことは上記のとおりであり、「贈与により取得した財産に係る贈与税について更正又は決定をすることができる期間を経過して課税権が消滅したものを除く旨の法令の規定も存在しない」として、子2人の主張を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

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