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取引相場のない株式の物納 直近の令和3年度は申請0件

2023.10.30

取引相場のない株式そのものを相続税の納税に充てる「物納」は、直近の令和3年度の申請が0件だったことがわかりました(国税庁まとめ)。申請件数が0となったのは、少なくとも平成20年度以降初めて。

物納とは、相続税を分割払いである延納によっても納められない場合に、税務署長の許可により相続財産で納めることが認められる相続税納付の特例です。
取引相場のない株式については平成18年度税制改正で、管理処分不適格な株式でなければ、原則として物納が許可されることになりました。

具体的には、会社の定款から譲渡制限をはずし、国が売る場合の手続きが速やかにできれば、他に問題がない限り物納できる方向となっていました。
ただ、物納後の取り扱いについては、発行会社、主要株主、役員、従業員、主要取引先等の随意契約適格者からの買受意向が示されているもの以外の株式は、速やかに一般競争入札により処分することとされました。
したがって納税者サイドでは、発行会社などの関係者による買い取りを考える必要に迫られ、取引相場のない株式の物納は実質的に納税の時間稼ぎ的な色合いが濃いものとなっていました。

さらに平成30年4月から、所定の非上場株式会社の全株式を対象に納税猶予割合が100%となった「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」などの事業承継税制が施行されたこともあって、取引相場のない株式の物納の申請件数は、減少するとの観測がありました。

以下は、平成27年以降の取引相場のない株式物納の申請状況です。
これは事業承継税制のおかげで、財務省理財局の物納株式の管理処分の事務が減っているといえるかもしれません。

繰越金額 新規申請件数申請金額
H27 9401万円 3 24億3984万円
H28 24億3984万円 2 1601億4809万円
H29 0 3 1億1464万円
H30 0 1 63億2974万円
R1 0 3 1869万円
R2 1億8693万円 1 19億2253万円
R3 0 0 0

令和6年度税制改正要望では、事業承継税制の延長が要望されており、今後論議されるテーマの1つになっています。

仮に事業承継税制が廃止ともなれば、事業承継税制により物納の選択をせずに済んだ中小企業同族会社の取引相場のない株式が相続税の納付に当たり、再び物納財産に充てられることも予想されます。
税制改正の行方が注目されます。

[ 遠藤 純一 ]

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