Topics
TACTトピックス

相続税の無申告 相続人が病気なら加算税は赦されるか?

2022.11.15

高齢化した親の死去に伴い、老いた子が財産を相続するという「老々相続」は、超高齢化社会ならではの世相です。相続人自身も病気で亡親に係る相続税申告手続きに支障をきたす場合もないではないでしょう。

しかし、相続税の期限内申告ができなかったことについて、相続人の病気が「正当な理由」と認められ、無申告加算税を課税するのは酷な場合に該当するかどうかは、微妙なようです。最近、その点が争点になった裁決が明らかになりました(国税不服審判所、令和 4年5月11日裁決)。

裁決書によると、母の死亡で開始した相続で、相続人自身も病気だったため相続税申告の提出が法定申告期限後になってしまった事例です。すかさず税務署は、無申告加算税を賦課決定しました。しかし相続人は、被相続人の死亡時には入院しており、その後も寝たきりで、法定期限内に申告書を提出できるような精神的・肉体的状況ではなかったことから「正当な理由」があるとして、無申告加算税の賦課取消を求めて国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰いだものです。

無申告加算税とは、期限後申告書の提出があった場合に課される税金。金額は、納付すべき税額の15%に相当する金額です(国税通則法66条)。ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて「正当な理由」があると認められる場合には、無申告加算税を課さない決まりです。つまり、この事例では、病気が正当な理由と認められれば、加算税の賦課は赦されるわけです。

審判所はまず、「正当な理由」があると認められる場合について、「法定申告期限までに申告書が提出されなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、(中略)納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのか相当」と考え方を示しました。

次に事実関係について審判所は、諸状況や担当医師らの各所見を確認の上、以下のように整理しました。
(1)相続人は申告期間において入院又は通院しており、担当医師らの各所見があることなどから、日常の生活能力は相応に低下していたことが認められる。
(2)一方で相続人は外部の人の接触や外出を担当医師らから禁止されておらず、複数回外出している上、相続とは別件で自身の問題に関し弁護士と面会して意思表示をすることができており、申告期間全てを通して相続人が申告書を提出できる状熊になかったことを客観的に裏付ける証拠も見当たらない。

最終的に審判所は「病状は、客観的にみて、申告書を法定申告期限までに提出できない状態であったとか、あるいは、税理士等他の者に申告を依頼するなどの意思表示すらできない状態であったとまではいえない」として、無申告加算税を課さない「正当な理由」があるとは認められないと判断しています。

相続する側も病気を抱えてしまうことがありますが、無申告加算税を課さない「正当な理由」があるかどうかは上記のように厳しく判定されることは念頭に置きたいところです。

[ 遠藤 純一 ]

当サイトに掲載の文章等の無断転載を禁じます。
全ての著作権は税理士法人タクトコンサルティングに帰属します。
無断使用、無断転載が発覚した場合は法的措置をとらせていただきます。