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東京地裁、生産緑地の相続税評価で異例判決「評価通達により難い特別の事情」の解釈に注目

2021.01.12

無道路地で広大地となる1500㎡弱の生産緑地(畑)の相続税評価が、国税庁の定めた財産評価基本通達に基づく評価額約2,200万円になるか、それとも実費の見積もりで道路開設費用等を考慮した評価額約570万円となるかで争われた裁判が東京地裁でありました。同裁判所は令和2年10月9日、宅地転用の際にかかる道路開設費用・造成費用等が、広大地として減価される金額を超えるため、財産評価基本通達に依拠してこの畑を評価することができない「特別の事情」があるとして、納税者に軍配を上げる判決を下しました。

判決等によると、問題になった畑は約1500㎡の畑で、市街化区域内に所在する農地です。しかも西側で幅員約1.8mの農道に接していますが、建築基準法上の接道義務を満たしていない無道路地でした。仮に宅地であるとした場合には評価通達24-4にいう広大地にあたり、管轄の市長に対し買取りの申出をすることができる生産緑地でした。このため、この畑には評価通達40-2(旧広大な市街地農地等の評価)、24-4(旧広大地の評価)、40-3(生産緑地の評価)が適用され、 評価通達による場合は約2,200万円になるものでした。

主な争点は、本件土地の評価につき評価通達により難い特別の事情があるかどうか、です。

裁判所は評価通達40-2について「市街地農地を広大地として評価する場合には、評価通達40により広大でない市街地農地を評価する場合には控除することとされている宅地造成費を控除しないで評価することとしているのは、評価通達24-4の広大地補正率の中には宅地造成費等も考慮されていることを前提とするものと解され(中略)これら評価通達の定めは、一般的には合理性を有する」としました。しかし問題の畑を宅地に転用するのに、評価通達40-2や24-4の定めが想定する程度を著しく超える宅地造成費等(建築基準法上の道路まで通路を開設するのに必要な費用を含む。)を要するような場合には、評価通達により難い特別の事情があると解される」として、次のように「評価通達により難い特別の事情」を検討しました。

  • 無道路地であるため、開発区域内の住宅敷地に接する道路幅員を6m以上とする管轄市の定めに従い、道路を開設する必要があること。
  • 道路開設予定地上には未登記の倉庫があり取壊しが必要なこと。
  • 道路用地の取得・道路開設・倉庫取壊費用を含む造成費用は約5,000万円(路線価ベースで約4,050万円)であること。
  • 広大地評価で減額された金額は約2,050万円であること。

こうしたことから、裁判所は、「評価通達による評価額を本件土地(畑)の適正な時価と推定することはできない」から管轄税務署の「更正処分は、その適法性の立証がない」として更正処分等を取消し、「課税庁において改めて(本件土地には評価通達により難い特別の事情があることを前提に)本件土地の適正な時価を算定し、本件更正請求に対する判断をさせるのが相当」と判断しています。

[ 遠藤 純一 ]

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