Topics
TACTトピックス

小規模宅地等の特例 貸付事業用宅地等への適用で生計一が問われた事例

2020.03.09

小規模宅地等の特例は、貸付事業用宅地等を選択して適用する場合、その200㎡までについて50%の評価減ができます。被相続人が保有していた貸付事業用宅地等には、①被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地と②被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地の二つがあります。

②の親族が貸付事業を行っている場合で、小規模宅地等の特例の適用のポイントの一つは、被相続人と生計一であることです。最近、この「生計一」を巡って争いになった事例がありました(国税不服審判所裁決、平成31年4月8日)。
裁決書によると、貸付事業用の宅地は約170㎡の土地で、被相続人である母親と納税者Aさんが持分2分の1ずつ持っていました。ただ、母親は、入居金や施設利用料の前払金併せて1,500万円弱を自腹で払い、平成18年から介護サービスのある有料老人ホームに入所し、Aさんとは、同居していませんでした。母親は、病院に入院するとき以外は、外泊はなかったといいます。

その後、Aさんは母親の死亡で、貸付事業を行っていた宅地の持ち分2分の1を相続しました。Aさんは、この2分の1について小規模宅地等の特例を適用し申告したところ、税務署から「Aさんは被相続人である母親と生計を一にしていない」として否認され、Aさんが審査請求し争いになったものです。

国税不服審判所は、「「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、あるいは日常生活の資を共通にしていたことをいい、 「生計」とは、暮らしを立てるための手立てであって、通常、日常生活の経済的側面を指すものと解される」としました。そして同居していない場合には、「その親族が被相続人と日常生活の資を共通にしていたと認められることを要し、そのように認められるためには、少なくとも、居住費、食費、光熱費その他日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要するものと解するのが相当」としました。

そのうえで国税不服審判所は、次のような事実関係を確認しました。
①亡くなった母親が有料老人ホームに入居後相続開始までの約9年間、Aさんとは同居していなかったこと
②老人ホームの入居金、施設利用費及び管理共益費に充当される前払金、月額の利用料、利用料に含まれない実費負担額の全てを母親が負担していたこと
③Aさんの日常の生活に係る費用の主要な部分を母親が負担していた事実も見当たらないこと

以上から、国税不服審判所は「日常の生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったとはいえず、日常生活の資を共通にしていたと認めることはできない」と結論しました。

またAさんが「食費や介謹用品以外の衣類等その他生活に係る身の回りの備品はAさんが自己の負担で用意していた」との主張に対し、国税不服審判所は、「被相続人にとっての日常の生活に係る費用の主要な部分は老人ホームの利用に当たって支出を余儀なくされる費用と認められるから、衣類等その他生活に係る身の回りの備品の購入費用の支払をもって、日常の生活に係る費用の主要な部分をAさんが負担していたと認めることは困難」として、Aさんについて「生計を一にしていた当該被相続人の親族」とは認められないと判断し、Aさんの言い分を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

当サイトに掲載の文章等の無断転載を禁じます。
全ての著作権は税理士法人タクトコンサルティングに帰属します。
無断使用、無断転載が発覚した場合は法的措置をとらせていただきます。