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相続税申告していた被相続人の退職金 後でもらえなくなった場合の更正の請求

2019.11.11

相続税がかかる財産として申告していた「被相続人の退職慰労金」が、会社の経営状態の悪化で、退職慰労金支給契約の合意解除に至り、もらえなくなったケースで、税金トラブルになった事例が明らかになりました(国税不服審判所平成31年1月24日裁決)。

裁決書によると、取締役会長だった被相続人の死亡で開始した相続で、取締役である妻と社長である長男のほか、長女が相続人となりました。退職慰労金については、平成25年の臨時株主総会において、亡き会長に対し会社が定める基準の範囲内で退職慰労金を贈呈することを決め、その具体的金額、贈呈の時期及び方法等については、取締役会の決議に一任することを議決しました。
これを受けて取締役会において、その金額を定め、会社の資金事情を考慮して、退職慰労金を平成25年5月以降平成27年度までの間において分割支給することを決めたといいます。その後、遺産分割協議を平成25年8月に済ませ、退職慰労金の相続人ごとの金額を決め、相続税の申告をしました。会社は退職慰労金の一部を同8月に支払いました。

しかし3年後、会社の経営状態が悪化したため、取締役会で未払いの退職慰労金の引当金を取り崩すことを決議するとともに、各相続人に対し、退職慰労金の支給契約の解除を内容とする確認書を取り交わしました。

このため相続人らは、平成29年7月に税務当局に対し、合意解除により未払退職慰労金相当額の退職慰労金にかかる債権・債務務が遡及的に消滅したとして相続税を訂正・減額する「更正の請求」をしたところ、税務当局がこれを認めなかったことから、最終的に国税不服審判所での争いに発展したといいます。

争点は、この合意解除を理由として、更正の請求が認められるかどうかという問題です。

国税不服審判所は、まず通常申告期限から5年以後に生じた政令で定めるやむを得ない理由が生じた場合にできると規定された更正の請求について、やむを得ない理由が5年以内に生じた場合も、更正の請求ができる場合の基本的なケースである「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより(中略)納付すべき税額が過大であるとき」に含まれるとしています。

そして政令で定めるやむを得ない理由について国税不服審判所は「その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が、解除権の行使によって解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され、又は取り消されたこととする旨規定しているところ、当該契約が法定申告期限後に合意解除された場合には、当該合意解除が、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約の効カを維持するのが不当な場合、その他これに類する客観的理由に基づいてされた場合にのみ、これを理由とする更正の請求が認められるものと解するのが相当」としました。

そのうえで、事実関係を次の通り整理しました。

ア、退職慰労金は支給決議によって被相続人の死亡後3年以内に確定し相続人は退職慰労金を相続により取得したと認められること  

イ、退職慰労金の支払いにつき行なわれた合意解除は、法定解除権や約定解除権の行使によるものではないこと

ウ、会社が連続して経常損失を計上するような状況において、会社と全取引金融機関が、会社の抜本的再建計画を策定するまでの期間(平成28年9月末から平成29年3月末まで)、借入金の返済を猶予することを合意した事実が認められるが、会社の債務の切捨てが全取引金融機関からの借入金についても行われたわけではなく、 あくまでも問題の合意解除は、任意に行われたものと認めるのが相当であり、合意解除にやむを得ず債権の放棄を行ったというような客観的な事情があるとまではいえないこと

国税不服審判所は、こうしたことから、更正の請求は認められないとして相続人らの主張を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

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