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配偶者の相続放棄で別居の子は相続税の小規模宅地等の特例を受けられるか

2019.10.21

亡くなった父親が住んでいた住宅の敷地を相続するのに際して、その配偶者が相続放棄をしたことから、子が「家なき子」にあたるとして、相続税の特例である小規模宅地等の特例を適用して相続税の申告をしたところ、税務署とトラブルになった事例が明らかになりました(国税不服審判所平成31年3月29日裁決)。

小規模宅地等の評価減の特例とは、亡くなった親の住宅敷地が特定居住用宅地等に該当する場合には、面積330㎡を上限として、課税価格を80%減額するという税制上の特例です。この特例を適用できるのは、被相続人の配偶者、相続直前に同居していた相続人、俗に「家なき子」と呼ばれる「相続開始前3年以内に自分やその配偶者が所有する住宅に住んでいない別居の相続人で一定の要件を満たす人」とされています(租法69の4③)。

被相続人の住宅敷地を取得した子が、「家なき子」に該当するかどうかは、まず被相続人の配偶者、相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族で政令で定める者がいないことが前提になります(平成30年度税制改正では、この要件のほか、さらなる規制が加えられています)。

トラブルになったのは、平成26年に相続で父親の住んでいた住宅敷地を相続したAさん。母親も相続人だったのですが、夫婦間でトラブルがあり相続放棄をしました。このため、Aさんは母親が相続放棄により相続時にさかのぼって相続人でなくなるため、小規模宅地等の特例の「家なき子」の前提要件である「被相続人の配偶者がいないこと」に該当するのではないかと考えて、「家なき子」として小規模宅地等の特例を適用して相続税の申告をしました。しかし税務署は、小規模宅地等の特例の適用はないものとして更正したことから国税不服審判所の判断を仰ぐことになったといいます。

国税不服審判所は、小規模宅地等の特例で使われている「当該被相続人の配偶者」という用語について「相続税法及び措置法は、「配偶者」についての定義規定を置いていない。このような場合、租税法律主義や法的安定性の見地からすれば、別意に解すべき特段の事情がない限り、本来の法分野における意義と同じに解釈すべきである。そして、身分関係の基本法である民法は、婚姻の届出をすることによって婚姻の効力が生ずる旨規定し(同法第739条第 1項)、そのような法律上の婚姻をした者を「配偶者」としている(同法第725 条《親族の範囲》第2号、第751条《生存配偶者の復氏等》等)から、措置法第69条の4第3項第2号の「配偶者」についても、法律上の婚姻関係にある者を意味すると解すべきである」としました。そして、Aさんの考えについて、「当該被相続人の配偶者」を当該被相続人の相続人であることを要することを前提とするものだが、相続人に限定する旨規定した法令の規定もないことから、採用できないとしてAさんの主張を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

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