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賃貸不動産経営のための借入金 リストラ後の相続で税金トラブル

2019.07.08

賃貸不動産経営のリストラに伴って、不動産の一部売却と借入金圧縮を経て事業を継いだ相続人が、借入金利子の必要経費算入をめぐって、税務署とトラブルになった事案が明らかになりました(国税不服審判所(以下審判所という)平成30年7月9日裁決)。

裁決書によると、Xさんは平成2年に16億5千万円を借入して、SRC造7階建ての建物を新築し、その後賃貸用建物設備資金と運転資金、その他設備資金併せて1億5千万円を上乗せしました。

しかし平成20年になって、事業をリストラするため、Xさんの息子YさんとYさん自身が運営する会社(Y社)に賃貸不動産の持ち分4分の3を譲渡するとともに、譲渡資金と借換えの借入金で、元の借入金を全額返済し、借入金総額を約6億2,500万円に圧縮しました。その後、相続が開始、Yさんが残りの賃貸不動産の持ち分と借入金残高約5億3千万円を取得し、事業を承継したといいます。

用途リストラ直前の残高返済原資
①賃貸建物取得 9億6,560万円 Y等への譲渡対価の一部
4億1,931万円
②賃貸用建物設備資金 1,369万円余り
③運転資金 2,383万円余り 借換資金
6億2,500万円
④賃貸用設備資金 4,118万円余り
合計 10億4,431万円 10億4,431万円

そこでYさんは、借換えした金融機関に支払利子として、不動産所得の計算上、支払った利子を全額必要経費に算入して申告したところ、税務署が支払利子の一部を必要経費に認めないと否認しました。

税務署によると、Xさんが生前リストラでYさんやY社に建物の持ち分4分の3を売っていたから、それに対応する借入金の借換部分に相当する金額の利子は必要経費と認めるわけにはいかないというのです。

このためYさんは、審判所に審査請求することにしました。

審判所は、借入金利子が必要経費となるかどうかについて「借入れによる資金の使途が、その者の営む不動産所得を生ずべき業務の用に供する資産の取得に充てられているなど、その借入金が当該業務との間で客観的にみて直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものか否かによって判断するのが相当」としました。これを踏まえ、審判所は「平成20年の一括返済において、Xが持分譲渡資金を各借入金の特定の借入金の返済に充てる旨金融機関との間で合意していたなどの事実は認められない」ことを確認。こうしたことから審判所は、次のように判断しました。

  1. 建物に係る①、②の借入金は4分の3が譲渡されており、業務用の資産自体がないから譲渡した部分に相当する借入金は不動産所得を生ずべき業務との間で客観的にみて直接の関係を持つものと認めることはできない
  2. 借換資金についてはリストラ時に返済資金が「特定の借入金の返済に充てられた事実は認められないことからすれば、持分譲渡資金及び借換借入金は、(元の)各借入金の残高に応じて均等に(元の)各借入金の返済に充てられたもので、借換借入金は、借入金のそれぞれの使途を引き継ぐ

これにより、Xさんの業務に直接関係する借入金は、リストラ時の残高全額のうちに占める「①、②の残高に4分の1をかけた金額と③、④の残高の合計額」の割合に相当する29. 67パーセント部分と認定
し、これを超える利息は必要経費と認められないとして、税務署を支持しています。

[ 遠藤 純一 ]

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