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消えた2,200万円で税金紛争 費消した形跡なしで相続税課税

2019.04.15

相続直前に引出された預金約2,200万円が盗まれたわけではないがどこかになくなってしまったので、相続財産に含めず相続税の申告をした相続人がいました。

しかし税務署が「相続開始時にはその現金はあったはずだ」として相続税をかけました。相続人はこれを不服として争った事例が最近出てきました(国税不服審判所裁決平成30年4月24日)。

裁決書によると、被相続人Aさんは亡くなる1日前、近くの農協支所(自宅から約700m)へ家族の運転する車で赴き、貯金から約2,200万円を引き出し、そのまま家族の運転する車で午後3時ごろ現金を自宅に持ち帰りました。Aさんは翌日夜遅くに亡くなり、相続が開始しました。

相続人は、この約2,200万円を相続財産に含めず相続税を申告。これに対し税務署は、この約2,200万円を未分割の相続財産として相続税の課税対象に含めて相続税の更正処分等をしたことから相続人は国税不服審判所に審査請求し、争いとなったものです。

相続人は、「被相続人が相続人以外の第三者に対して現金を渡す事情があったものと推定されること」、「課税対象の財産の存在についての立証責任は原処分庁(税務署側)が負うべきもの」だから、「現金の存在を推定する証拠がない場合はその現金が存在しないものと考えるべき」と主張しました。

国税不服審判所はまず、次のような事実関係を確認しました。

  1. 貯金を引き出して自宅に現金を持ち帰ってからAさんが亡くなるまでに、Aさんの自宅付近の金融機関へ、Aさんや相続人名義による預金の預入れはなかったこと
  2. Aさんや相続人に関係する租税公課の納付や債務の弁済がなかったこと
  3. Aさんが亡くなるまでにAさんが外出したり、来客があったりしたことがなかったこと
  4. 相続人の申述によると、「Aさんがギャンプル等の短時間で多額の金銭を費消するような趣味はなかった。貯金を下ろした日、同居相続人は農作業のため夕方に帰宅し、Aさんが亡くなった日も農作業で昼にいったん自宅に戻ったほかは外出で、戻ったのは午後6時ごろだった。複数の相続人は贈与を受けていない。第三者へ贈与する心当たりもない。相続開始後に自宅内を整理して探したが、見つからず、この現金の使途につながるような書類も見当たらなかったが、盗まれたわけではないので、警察には届けていない」

審判所はこうした事実関係を受けて、Aさんがわずかの時間に相続人に知られず、外出したり、来客と面会する機会は限定的で、「Aさんは現金を費消しなかったと推認される」と結論付けました。そして審判所は「何らかの意図をもって本件金員を払い戻したものの、費消等する前に死亡した可能性は十分にある」ことから「現金約2,200万円は相続財産」と認定しました。

また、相続人が税務署側に課税対象の財産の存在についての立証責任を問うていることに対し「自宅で保管していたことが証拠上認められる」として相続人の言い分を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

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