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配偶者居住権が法定された背景

2019.03.11

民法(相続法)の改正で配偶者居住権が創設されました。とくに話題となっているのが配偶者が亡くなるまでの配偶者居住権(改正民法1028条)です。
これは配偶者がその建物を無償で、使用・収益することができる権利です。
これが認められるのは、相続開始時点で、被相続人の遺産に含まれる建物に配偶者が住んでいる場合です。

取得できるのは、遺産分割で配偶者居住権を取得するものと決められたときか、配偶者居住権が被相続人から遺贈の対象とされたときです。例外として、遺産分割の請求に対する家庭裁判所の審判で、配偶者が配偶者居住権を取得すると決めることができる場合があります(改正民法1029条)。

これに伴って、配偶者居住権の相続税法上の評価がどうなるのか、注目されてきました。平成31年度税制改正では、配偶者居住権の相続税法上の評価が法定されることが明らかになりました。

財産の評価については原則として、相続開始時点の時価とされています(相続税法22条)。ただし相続税法に特別の定めがある場合はその定めによります。これを受けて、財産の時価について客観的な交換価値として評価する仕方については、国税庁が納税者間の課税の公平を担保し、納税者の申告の便宜、徴税コストの抑制のため統一的な方法として「財産評価基本通達」を定めて一般に公開しています。実務では、「財産評価基本通達」を参考に相続財産の金銭的価値がいくらになるのかに強い関心がもたれているのが実情でしょう。このため当然、配偶者居住権もこの通達により評価されるのではないかとする見方もありました。

しかし税制改正法案策定の際、国税庁は配偶者居住権の相続税評価について法定すべきとする意見を財務省主税局に上申していました(平成31年度税制改正意見)。それによると「法律(改正民法1032条2項)で譲渡が禁止され、時価の測定は困難であるため、「時価」の解釈を定める財産評価基本通達で対応することは難しく、課税の公平の観点から、相続税法に「特別の定め」としての評価方法を定めることが相当」というわけです。配偶者居住権の評価についての相続税法の特別の定めが置かれた背景には、こんなこともあったのですね。

[ 遠藤 純一 ]

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