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No.991

財産評価上、リースバックの一時的建物賃貸借に借家権の有無が問われた事例

1.はじめに

貸家・貸家建付地(財産評価基本通達93・26)の評価減の適用をめぐり、借家権があるかどうかの事実認定で争いになった裁決事例が出てきました(国税不服審判所裁決令和8年3月11日・情報公開による)。
相続税では、貸家や、貸家が建っている貸家建付地に所定の評価減が認められています。それは、その建物や宅地につき、借家権があるため、所有者の使用等に制限を受けるからです。反対に事実上、借家権がない場合には、評価減は認められないことになります。ご紹介する事例では、問題になった一時的建物賃貸借に借家権の有無が問われる場合、どのような事実をどのように確認すべきかが、ポイントになりました。

2.事案の概要

Ⅰ、問題となった土地と建物はA社が被相続人に売却したもので、建物は4階建の事務所等(昭和43年1月20日新築)
Ⅱ、買主(被相続人)は、A社との間で、令和3年11月の売買契約で、問題の不動産の引渡しを受けた。ただし特約で、同年12月次の契約をした
Ⅲ、賃貸借契約の内容は次のとおり。
①契約書の表題は、「建物一時賃貸借契約書」であった。
②使用目的 A社は、建物を賃貸借契約開始時の現状のまま使用する。
③賃貸借期間 令和 3年12月13日から令和4年5月31日までの期間とし、期間満了をもって契約は終了する。ただし、A社の都合で期間延長を希望する場合、A社は、期間満了の1か月以上前に被相続人に通知することで、1か月単位で延長できる。延長は、最長令和4年12月31日までとする。
④造作、設備等の修繕 建物又は被相続人の所有に係る造作、設備の修理の必要が生じ、又はそのおそれがあるときは、修理はA社負担とする。
⑤契約終了後の明渡し A社は、被相続人に対し、賃貸借契約の終了後、建物内の動産類等を全て撤去の上、遅滞なく建物を明け渡さなければならず、また、明渡しに際し名目を問わず、立退料その他これらに類する一切の要求をすることができない。
⑥賃貸借契約書には、敷金や保証金など被相続人がA社に持つ債権を担保すべき金銭等の定めはなかった。
⑦賃貸借契約は、A社の解約申入れによって、令和4年2月28日をもって終了し、A社は建物から立ち退いた。この間、被相続人の死亡に伴い相続が開始した。
⑧相続人は、相続税の申告で、問題の不動産につき、貸家・貸家建付地として評価した。
⑨所轄税務署長は、この不動産につき、評価減をしないで増額更正処分をした。このため最終的に相続人は国税不服審判所(以下、審判所という。)に対し、貸家・貸家建付地の評価を求めて審査請求をした。

3.審判所の判断

審判所は、貸家の評価方法を定めている財産評価基本通達93について、「借地借家法の適用のある貸家はこれに基づく評価がされる」と確認。
一方、借地借家法上、一時使用のための賃貸借契約につき同法第3章の規定を適用しない旨の規定があることから、審判所は「一時使用のための賃貸借契約と認められるためには、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断されるか否かによるべき(最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決)」と判断基準を示しました。
次に審判所はA社における次の事情を確認しました。
(1)問題の建物は築年数が古く、修繕には高額の修繕費を要する状況で、売却先を探していた。
(2)金融機関に支払うべき借入金利息を考えると少しでも早く手放したかったため、移転先が決まるまで建物を一時的に借りることを前提に問題の不動産を売却することとした。
審判所は、上記の判断基準に基づき事実関係を次のように整理し、問題の不動産の賃貸借契約は一時使用のためと認定、相続税評価をする上で「貸家・貸家建付地」として評価すべきでないと判断しています。
ア、賃貸借の目的は、移転先が決定するまで本件建物を一時的に借り受けるため。
イ、賃貸借の動機、経緯等では、A社には賃貸借契約を短期間に限り存続させる意思があった。建物に係る修繕費はA社の負担とされていたため。
ウ、貸借期間は、実質約2か月半であり、最初の賃貸借期間の2分の1にも満たない短期間であった。
エ、貸借期間が短期間の場合には、賃借人に対する債権を担保すべき敷金等の定めを設ける必要性に乏しく、その定めがない。契約を短期間に限り存続させ
ることが予定されていたことを推認させる。 

[ 遠藤 純一 ]

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