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TACTニュース
No.775

広がる税務当局による情報収集の手法

1.はじめに

平成31年度税制改正大綱において、法定調書とは別に機動的に情報収集を行える仕組みの導入が謳われ、国税通則法に新しい規定が盛り込まれることになりました。

2.制度導入の背景

最近では、ICT技術が発展し、インターネット取引が広がっています。また、遊休資産を持つ個人とそれを一定期間利用した個人や、仕事をスポット的に探している人とその仕事をお願いしたい人とをインターネット上で仲介してビジネスにつなげる「シェアリングビジネス」などの新しい形態の経済取引も勃興、注目を集めています。
このため国税当局による新たな情報収集の手段について、制度が創設されることになりました。それが、このたびの税制改正法案に盛り込まれた国税局長による「特定事業者等への報告を求める制度」です。
国税庁では、こうした問題の認識のもと平成30年度税制改正論議の段階から「税制改正意見」という形で「要望」をしていました。それによると、取引のなかに適正公平な課税の観点から是正を要すると見込まれる問題のケースがある場合、「法定調書の提出を義務付けることが考えられる。しかしながら、この方法では、法定調書の導入まで当局が情報を入手する権限が与えられず、日々新しい事業形態が誕生する状況下での機動的な対応が困難である。そこで(中略)課税上の問題を有する納税者の特定を適時適切に行うための情報収集を機動的に行えるよう、情報収集権限を整備する必要がある」(平成31年度税制改正意見、情報公開制度により取得)ということです。今回、「要望」は2年で成就した形です。

3.制度の概要

法案などによると、インターネット取引やシェアリングビジネスなどの取引の相手方、または取引の場を提供する事業者(特定事業者等)のある場所を管轄する国税局長に権限が与えられます。
その権限は、特定事業者等に対し、取引に関する一定の事項を「60日を超えない範囲内においてその準備に通常要する日数を勘案して定める日までに、報告することを求めることができる」というものです(改正法案、国税通則法関係74条の7の2)。
一定の事項とは特定取引者に係る特定事項のことです。
特定取引とは、電子情報処理組織を使用して行われる事業者等(事業者(特別の法律により設立された法人を含む。)又は官公署をいう。以下この号において同じ。)との取引、事業者等が電子情報処理組織を使用して提供する場を利用して行われる取引その他の取引のうち第一項の規定による処分によらなければこれらの取引を行う者を特定することが困難である取引のことです。したがって特定取引者とは特定取引を行う者となります。
特定事項とは、氏名(法人については、名称)、住所又は居所、番号制の番号です。
ただし、特定事業者等に報告を求めることができるのは、次の前提条件を満たしている場合です。

ア、その特定取引者が行う特定取引と同種の取引を行う者に対する国税に関する過去の調査において、当該取引に係る所得の金額その他の特定の税目の課税標準が千万円を超える者のうち半数を超える数の者について、その取引に係る当該税目の課税標準等又は税額等につき更正決定等をすべきと認められている場合
イ、その特定取引者がその行う特定取引に係る物品又は役務を用いることにより特定の税目の課税標準等又は税額等について国税に関する法律の規定に違反する事実を生じさせることが推測される場合
ウ、その特定取引者が行う特定取引の態様が経済的必要性の観点から通常の場合にはとられない不合理なものであることから、特定取引者が特定取引に係る特定の税目の課税標準等又は税額等について国税に関する法律の規定に違反する事実を生じさせることが推測される場合

国税局長は、特定事業者等に対し報告を求める事項を書面で事業者等に通知して実施することになります。

4.新たな調書制度も要望

「平成31年度税制改正意見」では、国税庁は上記のほか、クレジットカード決済等の電子的な取引に着目した取引情報について収集する「クレジットカード決済等の電子的な取引に係る調書提出制度」や、仮想通貨交換業者を通じて仮想通貨の売買取引を行った者及び仮想通貨保有者について情報収集する「仮想通貨交換業者を通じて行った仮想通貨の交換取引に係る調書提出制度」の創設も要望していました。今後の動向が注目されます。

[ 遠藤 純一 ]

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