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TACTニュース
No.776

【Q&A】複数の相続財産を同一年に譲渡した場合における、本来の取得費に加算される相続税額

【問】

Aさんは、平成30年1月に亡父が平成10年に購入した建物とその敷地である土地を相続しました。Aさんは亡父に係る相続税の納税資金に充てるため、平成30年10月に建物と土地を㈱Bに譲渡しました。その際の建物と土地の譲渡価額等は、以下の通りです。この建物と土地に係るAさんの譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(措法)39条の特例(以下「本特例」)により、本来の取得費に加算される相続税額はいくらになりますか。
(1)建物
・譲渡価額:100万円
・取得費及び譲渡費用:300万円
・相続税評価額:200万円
(2)土地
・譲渡価額:3,000万円
・取得費及び譲渡費用:500万円
・相続税評価額:2,500万円
(3)Aさんの相続した財産に係る相続税評価額の合計額(債務控除前):1億円
(4)Aさんが納付した相続税額:4,000万円

【回答】

1.結論

本来の取得費に加算する相続税の額(以下「取得費加算額」)は、譲渡資産(建物・土地)ごとに計算します。取得費加算額は、本特例の適用前のその資産の譲渡益(譲渡収入金額-取得費及び譲渡費用の合計額)を上限とされ、その資産の譲渡価額が、本来の取得費及び譲渡費用の合計額未満のため譲渡損失が生じる場合には、ないものとされます。
ご質問の場合、建物については譲渡損失が生じるため、取得費加算額はありません。一方、土地の取得費加算額は1,000万円となります(後述2(3)、(4)参照)。

2.解説

(1)本特例の概要
相続又は遺贈(「相続等」)により財産を取得した個人が、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に、その相続税の課税価格計算に算入された財産を譲渡した場合、その譲渡所得の金額の計算上、譲渡収入である譲渡対価から控除する取得費は、本来の取得費に次の①又は②のうちいずれか少ない金額(「取得費加算額」)を加算した金額とされます(措法39条、同施行令25条の16)。

①その譲渡者の相続税額×[譲渡者が相続等により取得した財産(H)のうち譲渡資産に係る相続税評価額÷Hに係る相続税評価額の合計額(債務控除前)]
②その譲渡資産の譲渡収入金額-(その譲渡資産の本特例の適用がないとした場合の本来の取得費+譲渡費用)
*②の金額がマイナスの場合、取得費加算額0

本特例の適用を受けることにより、相続税のうち本来の取得費に加算された金額だけ譲渡所得の金額が少なくなるので、結果として課税される譲渡所得の金額が小さくなります。
(2)複数の相続財産を同一年に譲渡した場合の取得費加算額の計算
 ご質問の譲渡のように同一年に譲渡した建物には譲渡損失、土地には譲渡益が生じている場合は、取得費加算額の計算において、上記(1)①と②の金額の比較を建物と土地で別々に行うのか、あるいは建物と土地をまとめて行うのかが問題となります。
この点について、措法39条第8項は譲渡した資産ごと、つまり建物と土地それぞれで取得費加算額を計算すると定めています。さらに措法通達39-5は、譲渡損失の生じた譲渡資産(建物)に対応する部分の相続税相当額((3)①の80万円)は、その資産の取得費に加算できないほか、他の譲渡資産(土地)の取得費に加算することもできない旨が明らかにされています。
  以上により、本問における建物と土地の取得費加算額は、次の(3)と(4)の通りとなります。
(3)建物の取得費加算額
 ①4,000万円×200万円÷1億円=80万円
 ②100万円-300万円=△200万円
∴取得費加算額なし
(4)土地の取得費加算額
 ①4,000万円×2,500万円÷1億円=1,000万円
 ②3,000万円-500万円=2,500万円
 ③①<② ∴1,000万円
(参考)Aさんの長期譲渡所得金額の計算
①譲渡収入:100万円+3,000万円=3,100万円
②取得費及び譲渡費用:300万円+500万円+1,000万円(取得費加算額)=1,800万円
③長期譲渡所得の金額:①-②=1,300万円

[ 山崎 信義 ]

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