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TACTニュース
No.727

同居の親に自宅の改修費用を負担してもらった時の贈与税

1. 同居の親と住まいの改修

子名義の住宅を改修する場合に、親がその改修費用を負担すると、改修部分が子名義の住宅に「付合」することにより、子が所有権を得ることから、とくにその金額を後で子が親に返すということがなければ、工事代金額の100分の70に相当する額の子への贈与があったものと考えられます。
税務当局は、この場合、贈与の意思がなくても贈与があったものとみなして贈与税を課税することになります。
「付合」とは、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する」と民法242条に定められているものです。
このため、子名義の住宅の改修費用を負担したときには、子が負担すべき費用を親がいったん肩代わりしたなどとして適切な金銭の貸し借りとして処理すれば、とりあえず贈与税の負担は避けられそうです。

2. 最近の裁決事例から

最近の裁決事例に、同居の母親から子名義の住宅をバリアフリー仕様にするためなどの改修費用を負担してもらって、住宅を改修した事例で、税務当局から贈与税を賦課されたケースがありました(平成29年5月24日)。
この住宅は父親が亡くなった時に自宅建物を子が相続して、母と同居していたものでした。敷地は母親が相続していました。
子である審査請求人は、およそ次のように考えて異議申し立てを経て審査請求に及びました。
「改修工事によってこの住宅家屋の固定資産税評価額が増加していないことからしても、付合の適用は否定されるべきである。
また仮に自分が受けた利益の価額に相当する金額は、相続税法第21条の3第1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」に該当し非課税となるはずだ。」
贈与税の非課税財産について定めた同規定は、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」とされています。
これに該当することになれば、贈与税の課税価格に算入しないことになるわけです。

3. 国税不服審判所の判断

争点は次の2つです。
(争点1)母が改修工事に係る工事代金を負担したことについて、請求人が、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで...利益を受けた」といえるか否か
(争点2) 仮に争点 1が肯定されるとしても、請求人が受けた利益の価額に相当する金額は、相続税法第21条の3第 1項第2号に規定する「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常心要と認められるもの」に該当するか否か

国税不服審判所は、争点1について、敷地に対し施工された部分を除いた工事部分について、「その工事内容等に照らせば、子の住宅(以下、本件居宅という)の構成部分となっているもの、又は社会通念上本件居宅の一部
分と認められるべきものであって、取引上の独立性を有しないといえるから、本件居宅への付合が成立する」と認定しました。
これを前提として国税不服審判所は、付合部分について民法第248条に基づき、付合により生じた損失に相当する費用について母親が子に償還請求することができるのにしていなかったことや、改修費用相当額について母
親と子の間で金銭消費貸借契約を締結していなかったことなどを指摘したうえ、「付合が成立した時点で、母から相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで...利益を受けた」といえる」としました。
請求人の「固定資産税評価額が増加していないことからしても、付合の適用は否定されるべき」との主張については、国税不服審判所は、「固定資産税評価額の増加がないことをもって、付合しない(中略)と解することはできない」としました。
さらに国税不服審判所は、争点2について「相続税法第21条の3第1項第2号の立法趣旨が、生活費又は教育費は、日常生活に必要な贄用であり、それらの費用に充てるための財産を扶養義務者相互間の贈与により取得してもそれにより担税力が生じないことはもちろん、その贈与の当事者の人間関係などの面からみてもこれに課税することは適当でないこと等にあるが、請求人の所得が多かったことを指摘し、「請求人の「生活費」に充てるためになされた贈与に当たると解することはできない」として、請求人の主張を退けています。

[ 遠藤 純一 ]

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