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TACTニュース
No.720

法人が100%子会社の経営権の譲渡に際し子会社に対する債権を放棄した場合の法人税の取扱い

2018.01.15 法人税

【問】

不動産賃貸業を営む㈱X(X社)は、飲食業を営む㈱Y(Y社)を発行済株式の全部を所有しています。X社は、経営不振に陥ったY社を自社で再建する見込みが立たないため、飲食業を営む㈱Z(Z社)にY社の経営権を譲渡することに決め、その保有するY社株式をすべてZ社に譲渡することにしました。ただし、Y社は財務基盤が脆弱であり、多額の銀行借入金を有することから、Z社からY社買収の条件としてX社のY社に対する貸付金1億円の放棄を求められています。X社はZ社への譲渡が実現しなければ今後Y社の支援に係る損失が増大し、自社の経営に悪影響を及ぼすことから、Z社の要求通りにY社に対する貸付金を放棄するつもりです。
親会社の100%子会社に対する寄附金については、親会社の法人税の計算上、その全額が損金不算入になると聞きましたが、X社のY社に対する貸付金債権の上記の事情の下の放棄も寄附金とされ、その債権放棄の額1億円はX社の法人税の所得金額の計算上、損金として認められないのでしょうか。

【回答】

1.結論

X社による100%子会社のY社への貸付金の放棄は、将来の損失や負担を軽減、回避するために必要な負担であり、合理的な対応と考えられるため、法人税基本通達(法基通)9−4−1より、X社の法人税の計算上、寄附金には該当せず、子会社の整理費用として損金算入が認められると思われます。
一方、X社が債権放棄に係る損失として損金算入する1億円については寄附金ではないので、X社がY社の株式を全て有する「完全支配関係」(法人税法(法法2条12号の7の6)がある場合でも、債務免除を受けるY社には受贈益の益金不算入の特例(法法25条の2)の適用はなく、その法人税の計算上、受贈益が生じます。

2.解説

(1)Y社に対する貸付金を放棄したX社における法人税の取扱い

親会社と子会社は別個の法人ですから、経営不振の子会社を他社に譲渡する際に親会社が子会社の損失を穴埋めする義務はありません。したがって、親会社があえて債権放棄をした場合は、この損失を法人税法37条第1項の寄附金とみることも考えられます。
しかし、法人が(X社)経営不振の子会社(Y社)の経営権を移譲するため、株式を他社(Z社)に譲渡することとした場合でも、譲受側の法人はその譲受け後における子会社経営上の負担を考えて、本問のように株式の譲受け前の赤字の圧縮を要求することがあり、このため譲渡側の法人がやむをえず子会社に対する貸付金等を切捨て、子会社の財政面を改善した上で株式の譲渡をするといったような事例も見受けられます。このような場合の債権の放棄は、子会社に対する単純な贈与ではなく、親会社として今後発生のおそれがあるより大きな損失を回避するために、やむを得ず行う損失の負担であると考えられ、事業上必要な経費として認められる場合もあると思われます。
そこで国税庁は、法人税基本通達9-4-1により、法人が子会社の経営権の譲渡等に伴い、債権の放棄その他の損失の負担をした場合においても、それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情にあるときは、税務上もこれを寄附金として取扱わないことを認めています。
以上により、X社が債権放棄したY社に対する貸付金1億円については、その放棄をした事業年度の法人税の所得金額の計算上、子会社の整理費用として全額を損金算入できると思われます。

(2)X社から債務免除を受けたY社における法人税の取扱い

内国法人が自社との間に法人による完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益の額で、法人税法37条(寄附金の損金不算入)の規定を適用しないとした場合に寄附をした内国法人(本問ではX社)の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される、同条第7項に規定する「寄附金の額に対応するもの」は、その受贈益を受けた事業年度の法人税の所得金額の計算上、益金の額に算入されません(法法25条の2)。
本問においてX社からY社が受けた受贈益(債務免除益)の額は、(1)で述べた通りX社においてそもそも「寄附金の額」に該当しないことから、上記の「寄附金の額に対応するもの」に当たらず、その免除を受けた事業年度のY社の法人税の所得金額の計算上、益金不算入とされません(法基通4-2-5)。 
以上により、Y社がX社から受けた債務免除益の額は、その法人税の課税対象とされるので、留意が必要です。

[ 山崎 信義 ]

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