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TACTニュース
No.708

被相続人の配偶者が遺産分割前に死亡した場合の特定居住用宅地等に係る小規模宅地特例

【問】

甲さんは平成29年7月に死亡しました。甲さんの相続人は配偶者の乙さんと子のAさんおよびBさんの3人でしたが、その遺産分割協議前の同年9月に乙さんが急死しました。甲さんと乙さんが相次いで亡くなったことから、甲さんと乙さんの相続人であるAさんとBさんは、甲さんに係る相続税と乙さんに係る相続税がトータルで少なくなるように、甲さんに係る相続財産のうち自宅とその敷地を乙さん、その他の財産をAさんとBさんが相続し、その後乙さんに係る相続財産をAさんとBさんが相続することにしました。
Aさんが上記の遺産分割を考えたのは、①甲さん夫婦は、甲さん所有の自宅で甲さんの相続開始直前まで居住、②乙さんは甲さんの相続開始後も死亡直前まで甲さんの自宅に居住、③AさんとBさんは、それぞれ甲さんの相続開始前よりずっと自己の持家で居住し甲さん夫婦とは別居していたため、甲さんに係る相続税の計算上、「特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例」(租税特別措置法(措法)69条の4)の適用を受けるためには、配偶者の乙さんが自宅の敷地を相続する必要がある、という事情があります。Aさんの考えの通り、甲さんの遺産分割協議が行われる前に相続人の乙さんが死亡している場合であっても、乙さんが甲さんから自宅の敷地を取得したものとして、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができますか

【回答】

1.結論

甲さんと乙さん相続人のAさんとBさんが、甲さんの相続につき甲さんの後に死亡した相続人(乙さん)が、甲さんの自宅敷地である宅地を取得したことを確定させていることから、甲さんに係る相続税の計算上、乙さんはその宅地について特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

2.理由

(1)特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の概要

個人が相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が「特定居住用宅地等」に該当する場合には、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、その宅地等の最大330㎡までの部分について、その価額の80%相当額を減額します。これを「特定居住用宅地等に係る相続税の小規模宅地等の特例」(以下「本特例」)といいます(措法69条の4第1項)。
被相続人(本問では甲さん)の居住の用に供されていた宅地等を、その配偶者(本問では乙さん)が相続により取得した場合、その宅地は特定居住用宅地等に該当します(同第3項2号ロ)。

(2)相続人が遺産分割前に死亡している場合における「特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例」の適用

本特例は、原則として適用対象となる宅地が相続税の申告期限までに分割されていることが必要であり、未分割の宅地については原則として適用されません(同第4項)。ご質問のように被相続人(甲さん)の相続人(乙さん)が遺産分割協議前に死亡していた場合、民法上は乙さんが甲さんに係る遺産分割によって財産を取得することは不可能ですから、乙さんについて本特例は適用されないことになります。しかし、このような取扱いは、相続人が遺産分割の確定により財産を取得した後に死亡した場合に比べて、相続税の計算上著しく不公平な結果をもたらします。
そこで、国税庁では租税特別措置法通達69の4-25により、その遺産分割前に死亡した相続人(本問では乙さん)の相続人(本問ではAさんとBさん)と、最初の(本問では甲さんの)相続に係る遺産分割前に死亡した相続人(乙さん)以外の相続人(本問ではAさんとBさん)が、遺産分割協議により、その死亡した相続人が本特例の対象となる宅地等を取得したことを確定した場合は、その宅地等は死亡した相続人が取得したものとして本特例を適用する取扱いをしています。

ご質問の場合は、被相続人の甲さんの相続に際し、甲さんの相続財産を直接取得する相続人かつ乙さんの死亡に基づく相続に係る相続人であるAさんとBさんが、遺産分割協議により、甲さんの相続において乙さんが本特例の適用対象となる自宅敷地を取得したことを確定させているので、甲さんに係る相続税の計算上、乙さんにつき本特例が適用されます(参考:大蔵財務協会「平成23年版 租税特別措置法通達逐条解説(相続税・贈与税)」82頁~84頁)。                         

[ 山崎 信義 ]

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