事業承継税制の最近の適用動向
1.改正後の動向
平成27年は、適用要件の緩和、手続きの簡素化に向けて改正された事業承継税制が施行された年です。平成27事務年度の相続税・贈与税のデータがまとまってきましたので、情報公開で取得した国税庁のデータから、最近の事業承継税制の適用動向を見てみましょう。
2.相続税
中小企業のための事業承継税制である「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」(租税特別措置法第70条の7の2)は、所定の中小企業経営者の相続人が、相続等により、都道府県知事認定の中小企業の議決権株式を取得した場合、取得した会社株式のうち発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分の課税価格の80%に相当する相続税をこの相続人が亡くなるまで納税猶予し、一定要件をクリアーした場合免除する制度です。
この制度を適用した被相続人が平成28年6月30日までに延べ716人、事業承継者が744人にのぼっていることがわかりました。平成27事務年度末まで納税猶予を受けているケースは689件、継続猶予税額は約438億円にのぼっています。
最近事務年度の適用状況(7月1日から翌年6月30日までの事務年度ベースでの集計)は次の表1の通りです。
表1
事業年度 | 25 | 26 | 27 |
---|---|---|---|
前期繰越人数 | 308 | 392 | 498 |
当期発生件数 | 86 | 114 | 194 |
打切・免除等差引要継続管理件数 | 89 | 120 | 203 |
当期発生金額(百万円) | 7,620 | 13,879 | 13,951 |
前期繰越金額(百万円) | 7,724 | 25,267 | 38,582 |
打切・免除等差引要継続管理分金額(百万円) | 25,267 | 38,582 | 43,893 |
平成27事務年度で適用した被相続人は194人で前事務年度比約70.1%増加、事業承継者は203人となり、前事務年度比69.1%増加しています
改正は雇用要件の緩和(5年間平均で雇用8割以上を確保)、親族間承継要件の廃止などが行われました。
適用動向から見るに、改正の効果があったといってもよさそうです。
3.贈与税
事業承継委税制のうち贈与税にかかるもの(租税特別措置法第70条の7)の適用動向は、次の表2の通りです。
表2
事業年度 | 25 | 26 | 27 |
---|---|---|---|
前期繰越人数 | 199 | 248 | 281 |
当期発生件数 | 66 | 48 | 254 |
打切・免除等差引要継続管理件数 | 248 | 281 | 519 |
当期発生金額(百万円) | 79,154 | 4,165 | 26,712 |
前期繰越金額(百万円) | 20,022 | 98,613 | 27,122 |
打切・免除等差引要継続管理分金額(百万円) | 98,613 | 27,122 | 53,127 |
平成27事務年度は適用件数(当期発生)が前事務年度比5.3倍になりました。猶予金額面では、平成25事務年度に福岡国税局管内で約751億円もの事案が発生し、翌平成26事務年度にその発生とほぼ同額が免除になったケースがあり乱高下していますが、平成23事務年度では当期発生分が80億円ほど、平成24事務年度当期発生分が45億円ほどのペースからすれば、平成27事務年度の267億円は、改正前の平年に比べ増加したといってよさそうです。
贈与にかかる事業承継税制では、先代経営者の役員退任要件が緩和され、残留できるよう改正が行われており、平成27年からの施行となっていました。データから見ると、やはりここでも効果はあったといってよさそうです。
4.今後の動向
事業承継税制は、平成29年度税制改正で、雇用確保要件の計算方法が見直されたほか、相続時精算課税制度との併用も可能とされる改正が行われました。さらに平成30年度税制改正に向けた論議では、さらなる制度の改正等について検討される模様です。
今後の適用動向がどのように変化していくのか、注目されます。
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