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TACTニュース
No.706

【Q&A】特定同族会社事業用宅地等に係る相続税の小規模宅地等の特例の適用

【問】

小売業を営むX㈱の代表取締役の甲さんは、平成29年3月に亡くなりました。甲さんは生前、X社のオーナー経営者として同社の発行済株式を全株保有し、所有する建物とその敷地をX社の本社不動産として継続して無償で使用させていました。
甲さんの相続人による遺産分割協議の結果、甲さんの相続財産のうち、X社株式とX社の本社建物およびその敷地であるY宅地は、甲さんの長男でX社代表取締役のAさんが相続することになりました。
 甲さんの相続人は、Y宅地が路線価の高い地域に所在することから、甲さんに係る相続税の計算上、その敷地が租税特別措置法(措法)69条の4第3項3号の「特定同族会社事業用宅地等」に該当するものとして、同法に規定する「小規模宅地等の特例」の適用を受けることで合意しています。甲さんに係る相続税の申告期限後も、Aさんが引き続きX社の代表取締役としてX社の経営を継続させる場合、Y宅地につき特定同族会社事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論

被相続人の甲さんは相続開始の直前においてY宅地上の建物をX社に無償で使用させており、Y宅地は後述の「被相続人等の事業の用に供されていた宅地等」に該当しないことから、甲さんに係る相続税の計算上、特定同族会社事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。

2.理由

(1)特定同族会社事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の概要

個人が相続又は遺贈により取得した宅地が、特定同族会社事業用宅地等に該当し、かつ一定の要件を満たす場合には、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上、その宅地等の地積400㎡まで、その宅地等の評価額の80%相当額が相続税の課税価格から減額されます(措法69条の4第1項、第2項)。
この場合の「特定同族会社事業用宅地等」とは、次の要件をすべて満たすものをいいます。
①相続開始の直前に、一定の法人の事業(不動産貸付業等を除く)の用に供されていた宅地等であること。なお「一定の法人」とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が、その発行済株式の総数の50%超を有している法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除く。)をいいます。
②その宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が、相続税の申告期限においてその法人の役員であること。なお「役員」とは、取締役、監査役など法人税法2条第15号に規定する役員で、清算人以外のものをいいます。
③その宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が、その宅地等を相続開始時から申告期限まで引き続き所有し、かつ、申告期限まで引き続きその法人の事業の用に供されているものであること。
ご質問の場合、①X社の発行済株式の全部(50%超)を被相続人の甲さんが保有し、②Y宅地を相続したAさんが甲さんに係る相続税の申告期限においてX社の役員(代表取締役)であり、③AさんがY宅地を甲さんに係る相続税の申告期限まで引き続き所有し、かつ、Y宅地が申告期限まで引き続きX社の事業の用に供されているときは、Y宅地は特定同族会社事業用宅地等に該当します。

(2)「被相続人等の事業の用に供されていた宅地等」の意義

ただし、特定同族会社事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続開始直前において、その特例の対象となる宅地等が、被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」)の事業の用に供されていたものであったことが必要です。被相続人所有の建物が建っていた宅地の場合、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等に該当するためには、その建物を被相続人以外の者に"相当の対価"により継続的に貸付けられていたことが求められます(措法通達69の4-23、同逐条解説)。
ご質問の場合、被相続人の甲さんが相続開始直前にY宅地上の建物をX社に無償で使用させており、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等に該当しないので、かりにY宅地が特定同族会社事業用宅地等に該当する場合でも、小規模宅地等の特例の適用を受けることができません。

[ 山崎 信義 ]

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