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No.705

適格合併等の後の資産の譲渡損等の取扱いに要注意(法人税法62条の7)

1はじめに

A社がその100%子会社であるB社を吸収合併すると、その合併は法人税法上適格合併となり、A社はB社の資産をその税務上の帳簿価額で引き継ぎます(簿価引継ぎの特例。法人税法62条の2)。被合併法人B社の資産の中に、含み損(帳簿価額に対して時価が低下している)の土地・甲があると、甲は時価より高いB社の帳簿価額でA社に引き継がれますから、A社が合併後すぐに甲を譲渡すると譲渡損が生じます。
上記のケースを考えると、支配関係がある二法人の間で、適格合併に係る上記の特例を利用して一方の法人が有する含み損を他方の法人に取り込み、その後その含み損を持つ資産の譲渡によりその含み損を実現させ、他方の法人の利益と相殺・通算するために適格合併を行う(むしろ利用する)ことが想定されます。

2.1のようなケースに対する個別の防止措置・・法人税法62条の7

1 のようなケースは、同一グループ内の法人の間で、事業上の目的や必要性と無関係に、租税回避の手段として適格合併等の適格組織再編成が利用される可能性を示すものです。そのような事態は認めるべきではないということで、表題の条項が、租税回避の蓋然性が高い一定の〈適格合併等の組織再編成+その後の譲渡損等〉の類型を定め、その損金算入を制限しています。

3.法人税法62条の7による組織再編成に係る譲渡損等の損金不算入の概要(原則)

下記(1)の組織再編成が行われ、かつ、その後に生じた譲渡損等が同(2)に該当する場合、その譲渡損等は損金不算入となります。

(1) 法人Xと支配関係(法人の発行済株式の総数50%超の株式を保有する関係として同法2条12号の7の5が定める関係)がある法人Yとの間で、Xを合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人とする特定の適格組織再編成等 (以下、単に「適格合併等」と記します。) が行われること。
ここで、合併の場合は、適格合併に限らずグループ法人税制(同法61条の13)により被合併法人の資産が簿価譲渡となる(同条7項)非適格合併も含みます。また、次の①又は②は、租税回避のために利用される蓋然性が低いとの想定の下、(1)から除かれます。
① Xのその適格合併等の行われた事業年度の開始の日の五年前の日から継続してXとYとの間に支配関係がある場合など、一定の期間を超える支配関係が継続している状態で行われる適格合併等 
② 共同で事業を営むための適格合併等として法人税法施行令112条(10項に基づく3項)が定める一定の条件を満たす適格合併等

(2) 適格合併等が行われた事業年度の開始の日から三年を経過する日まで(その日がXとYとの間に支配関係が生じた日以後五年を経過する日後となる場合は、その五年を経過する日まで)の期間において生じる次の①又は②の譲渡損等(特定資産譲渡等損失額といいます。) であること 。
① XがYから適格合併等により移転を受けた資産で、両社間の支配関係が生じた日前からYが有していたもの(特定引継資産)の譲渡、評価換え等による損失の額(他の特定引継資産の譲渡又は評価換えによる利益の額がある場合はそれを控除します。) 。なお、土地以外の棚卸資産や一千万円未満の資産などは特定引継資産から除かれます。このことは②の特定保有資産も同じです(同法施行令123条の8)。
② Xが、Yとの支配関係が生じた日前から有していた資産(特定保有資産)の譲渡、評価換え等による損失の額(他の特定保有資産の譲渡又は評価換えによる利益の額がある場合はそれを控除します。)。
②は、合併法人等が元々保有していた資産の譲渡損等も損金不算入となりうることを示しており、その点注意が必要です。①や②の譲渡損等であっても、上記「三年を経過する日」の後に生じるものや①や②以外の譲渡損等は、(2)の譲渡損等に当たりませんから、原則通り損金の額に算入されることになります。

4.3に対する救済的特例措置(同施行令123条の9)

表題の法令は、3(2)①の特定引継資産の特定資産譲渡等損失額に限り、一定の場合に、一定の申告計算や根拠書類を用意するなどの条件のもと、損金不算入額を緩和する特例を定めています。例えば、XとYの間に支配関係が生じたYの事業年度の前事業年度の終了の時におけるYの税務上の純資産の時価がその時の簿価以上である場合は、Yからの特定引継資産に係る特定資産譲渡等損失額を「ない」とする=損金不算入としないこともできます。可能な場合は、同条の適用を図るべきでしょう。

[ 亀山 孝之 ]

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