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No.704

配偶者が遺産分割前に死亡している場合の配偶者に対する相続税額の軽減の適用

【問】

甲さん夫婦は、平成29年5月に甲さん、同6月に妻の乙さんが相次いで死亡しました。甲さん夫婦の親族関係は下図の通りです。甲さんに係る遺産分割協議前に乙さんが亡くなったことから、甲さんと乙さんの相続人であるAさん、BさんとCさんが協議した結果、甲さんに係る相続税と乙さんに係る相続税がトータルで少なくなるように、甲さんに係る相続財産を乙さんとAさんが相続し、その後で乙さんに係る相続財産をBさんとCが取得することにしました。
 相続人のAさん、Bさん及びCさんが上記のような遺産分割を考えたのは、甲さんに係る相続税の計算上、「配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)」の適用が受けられるだろうという理解が前提になっています。本件のように、甲さんの遺産分割協議が行われる前に乙さんが死亡している場合であっても、甲さんと乙さんの相続人であるAさん、Bさん及びCさんの間で合意があれば、乙さんが甲さんの相続財産を取得したものとして、配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けることができますか。

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1.結論

Aさん、Bさん及びCさんの合意により、甲さんの相続につき甲さんの後に死亡した配偶者(乙さん)の取得資産を確定させていることから、甲さんに係る相続税の計算上、配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けることができます(相続税法基本通達19の2-5)。

2.配偶者に対する相続税額の軽減の概要

「配偶者に対する相続税額の軽減」では、被相続人の配偶者が相続又は遺贈により実際に取得した相続財産額(債務控除後)が、①配偶者に係る法定相続分相当額又は、②1億6,000万円のいずれか大きい金額以下である場合は、税額控除により配偶者が納付すべき相続税額がゼロになります(相続税法19条の2第1項)。ただし、その税額控除の計算の基礎とされる財産に、未分割の相続財産は原則として含まれません(同第2項)。

3.配偶者が遺産分割前に死亡している場合における「配偶者に対する相続税額の軽減」の適用

配偶者に対する相続税額の軽減は、上記2の通り「被相続人の配偶者が相続又は遺贈により実際に取得した相続財産額(債務控除後)」を基礎として計算され、未分割の財産については原則として適用されません。このため、ご質問のように被相続人(甲さん)の配偶者(乙さん)が遺産分割協議前に死亡していた場合は、厳密にいえば乙さんは甲さんに係る遺産分割によって財産を取得することは不可能であり、乙さんについて配偶者に対する相続税額の軽減は適用されないことになります。しかし、このような取扱いは、配偶者が遺産分割の確定により財産を取得した後に死亡した場合に比べて、相続税の計算上著しく不公平な結果をもたらします。
そこで、国税庁では相続税法基本通達19の2-5により、被相続人の相続財産を直接取得する相続人と、死亡した配偶者の相続人が、遺産分割協議により、その死亡した配偶者の取得財産を明確にした場合は、その財産は死亡した配偶者が取得したものとして、配偶者に対する相続税額の軽減を適用する取扱いをしています。
ご質問の場合は、被相続人(甲さん)の相続に際し、甲さんの相続財産を直接取得する相続人(Aさん)と、乙さんの死亡に基づく相続に係る相続人(BさんとCさん)が協議の上、甲さんの相続に係る乙さんの取得財産を確定させているので、甲さんに係る相続税の計算上、乙さんにつき配偶者に対する相続税額の軽減が適用されます(参考:大蔵財務協会「平成27年版 相続税法基本通達逐条解説」314頁~315頁)。

[ 山崎 信義 ]

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