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TACTニュース
No.699

外国の法律に基づいて作成された遺言書の日本における有効性

【問】

日本国籍をもつ私の父は、平成29年7月に居住先のA国で死亡しました。父は日本とA国に財産を持っており、A国に所在する財産については、現地の相続手続き(名義の書き換え等)がスムーズに行われるようA国の法律に基づいた方式で遺言書を作成していました。相続人は私と私の姉(いずれも日本に居住)ですが、このA国の法に基づく方式で作成された遺言書は、各相続人の相続分を決める方法として、日本国内においても有効なものとして認められるのでしょうか。また、その遺言書に記載のない日本国内に所在する父の財産を分割して相続するには、どのような手続きが必要でしょうか。

【回答】

1. 結論

A国の法律に基づく方式で作成されたあなたの父の遺言書(A国所在の財産に係るもの)は、日本国内においても有効な遺言書として取り扱われます(*)。よって、相続人であるあなたやあなたの姉はその遺言書に従い、その遺言のとおりにA国に所在する財産について相続をすることができます。

また、その遺言書に記載のない日本国内に所在する財産ついては、相続開始後、ひとまず相続人全員の共有財産となり(民法898条)、その後、その財産を相続人各人へ分けることになります(これを遺産の分割といいます。同907条1項)ので、遺産の分割の手続きとして、相続人であるあなたとあなたの姉で遺産の分割協議を行い、個々の財産を相続する者を確定し、その内容を記録した「遺産分割協議書」の作成が必要になります。
参考:遺産分割協議が当事者間で調わない場合には、家庭裁判所へ遺産分割の調停を申し立てることができます。(同907条2項)また、A国の財産についても、その遺言書の内容によらず、相続人全員で改めて取得者を決め直したいという場合にも遺産分割協議が必要になります。

なお、あなたとあなたの姉は、日本所在の財産とA国所在の財産、すなわちあなたの父の所有していた全ての財産が相続税の課税財産となり(相続税法1条の3・1項1号、2条1項)、その財産の合計額が基礎控除額(4,200万円、同15条1項)を超える場合には、日本における相続税の申告が必要になります。その際、あなたとあなたの姉がこの相続により取得した財産の全てを証する書類として、「A国の法律に基づく方式で作成された遺言書」と「遺産分割協議書」の両方を申告書に添付することになります。

2. 1.の*部分の根拠

遺言書が有効かどうかは、通常その遺言者(被相続人)が国籍を有する国の法律、すなわち本国法によります(法の適用に関する通則法36条、37条)。つまり、遺言者が日本国籍を有する場合には、日本の民法(民法960条以下)が準拠法になり、民法が定める方式、すなわち自筆証書遺言、公正証書遺言、又は秘密証書遺言(同967条~972条)のいずれかの方式に従った遺言書であることが、有効な遺言書となるために必要な要件の一つです(原則)。

しかし、遺言に関する各国の法律は様々であり、その法律が定める遺言書の方式は、民法が定める方式と異なることは珍しくありません。そこで他国の法律に従った方式で作成された遺言書であっても、自国において出来るだけ有効なものとして取り扱えるよう「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」という国際条約が1961年10月5日に発効し、この条約に基づく日本の国内法として「遺言の方式の準拠法に関する法律」が1964年6月10日に施行されました。この法律により、①遺言の作成という行為が行われた国の法(行為地法)②遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法(本国法)③遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法(住所地法)④遺言者が遺言の成立又は死亡の当時一定期間滞在していた地の法(常居所地法)⑤不動産に関する遺言についてその不動産の所在地法(不動産の所在地法)、のいずれかに遺言の方式が適合していれば、その遺言は日本国内においても有効なものとして扱われるようになったのです(同2条)。

以上のことから、A国に居住するあなたの父がA国で同国の法律に基づいた方式で作成した遺言書は、少なくとも上記①と③に該当するため、日本においても有効な遺言書となります。
ただ、あなたの父がその遺言作成当時、認知症を患っているなどで、正常な法的な判断能力がない状態で書いた遺言書である場合など、遺言方式以外の成立要件を満たさない場合には、遺言方式にかかわらず、その遺言書は無効となりえますので留意が必要です。       

[ 工藤 晴子 ]

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