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TACTニュース
No.686

相続・事業承継対策における「民事信託」と「商事信託」

2017.04.24 信託

1.はじめに

相続・事業承継対策に信託を活用する上で、最初に検討しなければいけない事項の1つが、受託者を誰にするのかということです。
いわゆる「民事信託」で実行するか、それとも「商事信託」で実行するか。また、仮に「民事信託」を選ぶ場合も受託者は個人か法人か、さらに法人となった場合も持分のある株式会社や合同会社のようなものとするか、それとも持分のない一般社団法人にするか。
受託者候補については、必ずしもこれが正解というのはなく、それぞれのご家庭ごとの事情を酌んで、ケースバイケースで判断をしています。本号では、最初の選択肢となる「民事信託」又は「商事信託」について、私の考えるところを簡単に記したいと思います。

2.民事信託とは?商事信託とは?

「民事信託」「商事信託」という言葉に法的な定義はありませんが、一般に、「民事信託」とは、受託者が営業としてではなく、特定の者から引き受ける信託であり、家族や同族会社等が受託者となるケースが多いと思います。基本的に信託業法が適用されない信託です。
これに対して、「商事信託」とは、受託者が営業として不特定多数の者から反復継続して引き受ける信託であり、信託会社や信託銀行等が受託者となります。受託者には一定の免許が必要であり、信託業法の適用を受けます。
なお、一口に「商事信託」と言っても、各社が提供するサービスは様々です。例えば、高齢者の詐欺被害予防の延長線等として、金銭・不動産・有価証券を受託し、主に高齢者向けにサービスを提供する信託会社があります。また、受託資産を事業用不動産とそれに関連する金銭に限定し、主に地主や会社経営者等の事業用不動産をお持ちの方向けにサービスを提供する信託会社もあります。商事信託の受託者はどこも同じだろうとひとくくりにせず、それぞれの事情に応じて、最適な信託会社・信託銀行を選ぶことが大切です。

3.民事信託がベストなのか?

民事信託の場合には、商事信託と比べて低コストかつ柔軟性のある設計にすることができるというメリットがあります。そのため、信託をするならぜひ民事信託を活用したいと考えるケースは多いです。
しかし、受託者とは、「信託行為の定めに従い、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う者」であり、受託者には、信託事務遂行義務の他、善管注意義務、忠実義務、公平義務、分別管理義務等の義務があります。したがって、信頼できる家族であれば誰でも受託者になれるかというとそうではなく、受託者にはこれらの義務を適切に果たせる能力がある者を選任する必要があります。

また、信託財産責任負担債務 については、基本的に受託者の固有財産についても責任財産となります。したがって、特に家族以外の者が軽い気持ちで民事信託の受託者になることにも注意が必要だと考えます。
つまり、民事信託のデメリットとしては、信頼でき、かつ適切に事務処理ができる受託者が身近に見つからない場合があること、身近な家族等の中から受託者が見つかった場合であってもその者に負担がかかるということ、万が一受託者が不正をした場合にはそれをみつけにくいこと等があげられます。
したがって、何がなんでも民事信託で実行しようとするのではなく、適切な受託者がみつからない場合や、商事信託で実行した方が効率的・安心であると考えられる場合等には、早い段階で商事信託の活用を検討されることをおすすめします。

4.おわりに・タクトセミナーのご案内

タクトコンサルティングでは、かねてより「民事信託」を活用した相続・事業承継のコンサルティングに携わってきましたが、信託に関するコンサルティングサービスを更に拡充させるため、このたび金融庁の認可を得て、「ほがらか信託株式会社」の代理店として「商事信託」の取り扱いを開始しました。
これを記念して、既報のとおり、信託をテーマにしたセミナーを、平成29年5月9日(火)に開催致します。「相続・事業承継対策における最適な信託設計を考える」というテーマのもと、民事信託と商事信託のどちらを選ぶかについても、パネルディスカッションを予定しています。
※ 本タクトニュース配信日現在、定員を超えるお申込みをいただきましたので、募集は締め切りましたことをご了承ください。 

[1]信託財産から支払わなければならない債務。信託行為に基づき受託者が受益者に対して負う給付債務、信託財産につき信託前に設定された抵当権に係る債務、信託設定時の信託行為の定めにより受託者が信託財産責任負担債務として引き受けることとした委託者の債務、信託行為の定めに基づいて受託者が信託財産のためにした借入等のこと。

[ 宮田 房枝 ]

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