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No.673

所得税法59条の時価(同法基本通達59-6による財産評価基本通達188の当否判定)

1.所得税法59条と同法基本通達59-6

所得税法59条1項は、個人が、法人に対して資産を贈与(又は著しく低い価額の対価で譲渡)する場合などについて、時価に相当する金額でその譲渡があったものとみなす旨を定めています。つまり、その個人は時価相当の対価を収受しないにもかかわらず、時価でその資産の譲渡をしたものとして譲渡所得等が計算されます。そして、同法基本通達(以下「所基通」)59-6が、所得税法59条1項が適用される譲渡の対象資産が株式である場合の時価の算定法を定めています。
59-6は前段と後段に分かれ、前段は、譲渡資産である株式の時価につき、所基通23~35共-9に準じて算定した価額によるとしています。23~35共-9の(1)~(3)は、上場株式など客観的な市場価格がある株式について、その市場価格を時価とすることを確認しています。その(4)が、(1)から(3)の場合以外≒同族会社の株式など市場価格のない非上場株式の時価の算定法を定めており、(4)は、更にイ・ロ・ハ・ニの4区分でその算定法を定めていますが、前3者に当たるケースはまれで、結局、ほとんどの非上場株式が「ニ イからハまでに該当しないもの」となるので、非上場株式の時価は「ニ」が定める算定法(の準用)により、時価ベースでの純資産価額を参酌して通常取引されると認められる価額として算定されることになります。
しかし、「ニ」の上記算定法は、それだけでは抽象的なので、59-6の後段は「ニ」の価額は「原則として、次によることを条件に、・・財産評価基本通達・・の178から189-7まで(取引相場のない株式の評価)の例により算定した価額とする」旨を定めています。

2.59-6後段の「次によることを条件に」の4条件

表題の4条件は以下の4つです。

(1)財産評価基本通達(以下「評価通達」)188の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、株式を譲渡又は贈与した個人のその譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。
つまり、株式の取得者ではなく、譲渡者が同族株主に該当するか判断し、該当すれば原則的評価法で評価し、非該当であれば配当還元方式で評価します。

(2)その株式の価額につき評価通達 179の例により算定する場合において、株式を譲渡又は贈与した個人がその株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、その発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。
これは、そのときは小会社の場合の評価方法、すなわち原則として純資産価額方式(類似業種比準価額との半々併用も可)で評価するということです。

(3)その株式の発行会社が土地(借地権を含む)又は上場有価証券を有しているときは、評価通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産はその譲渡又は贈与の時の時価によること。

(4)評価通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

3.評価通達188の(1)~(4)の該当判定の留意点

相続税法の評価では、188の(1)~(4)に該当するか否かはすべて取得者(相続人等)ベースで判定します。 
一方、所得税法59条の時価に係る所基通59-6の後段の4条件の中に、188の(1)だけでなく、その(2)~(4)の株主に該当するか否かの判定を(も)譲渡者ベースで行うとの定めはありません。そこで、所得税法59条1項の適用上、非上場株式の時価を算定する際、188の(1)~(4)の株主に該当するか否か(該当すれば配当還元方式で算定)の判定は、その(1)に限って譲渡者ベースで行い、その(2)~(4)に該当するか否かの判定は、相続税法上の評価と同様に取得(譲受)者ベースで行うことになるのではないか、という疑問が生じます。 
この疑問の結論は、188の(2)~(4)の株主に該当するか否かの判定も、譲渡者ベースで判定を行うということです。この疑問が争われ、左の結論を確認した裁決があります(平成23.9.28付。非公開。現在裁判中)。この裁決は措いても、そもそも、譲渡所得等の課税対象とされるべきは譲渡人の下における資産の価値増加分ですから、188の(1)~(4)はいずれも譲渡者ベースで判定を行うべきです。贈与等された非上場株式につき、59-6の後段により評価通達に準じて所得税法59条1項の時価を算定する際、188の(2)~(4)だけ取得者ベースで判定を行う合理的理由はありません。59-6の(2)の「中心的な同族株主」の該当判定も明らかに譲渡者ベースであり、このことにも上記結論が正しいことが表れています。

[ 亀山 孝之 ]

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