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土地建物一括売買の消費税は「価額按分」がポイント

2022.09.30

土地建物一括売買の消費税は「価額按分」がポイント

土地建物を一括して売買する取引では、契約に際して取引総額は売主買主間で合意できても、「消費税をなるべく下げたい売主側の思惑」と、「建物価額で多く減価償却をとりたい買主側の思惑」がぶつかり、建物価額が決まらないこともないわけではありません。その場合、土地と建物の価格の区分をしないで契約することもあるでしょう。

しかし、消費税を納める売主側では、建物の価額を合理的に按分することが求められます。土地は消費税が非課税なのに、建物は消費税が課税されるからです。

この事態に備えた消費税法施行令45条3項では、区分方法として「当該課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、これらの資産の譲渡の対価の額に、これらの資産の譲渡の時における当該課税資産の価額と当該非課税資産の価額との合計額のうちに当該課税資産の価額の占める割合を乗じて計算した金額とする」と規定しています。 

具体的な按分方法としては、①譲渡時における土地および建物のそれぞれの時価の比率による按分、②相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分、③土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含む。)を基にした按分があります。(国税庁HP)。

ここでよく実務で利用されるのは上記のうち、土地と建物の固定資産税評価額の比で按分する方法です。しかし、この方法では消費税を払い過ぎではないかと不満な場合もあるでしょう。

最近、大阪市中央区の商業ビルを土地ごと一括して10億500万円で売却した不動産業者が、消費税を巡る税務署との裁判で約1,500万円もの追徴課税取消しをもぎ取り、勝訴した事例が出てきました(東京地裁令和4年6月7日判決)。

判決によると、不動産業者は平成28年に、およそ土地8に対し建物2の割合が適切な割合だとして建物価額を決め、平成29年3月に消費税を申告・納付していました。

ところが税務署が土地と建物の固定資産税評価額の比(55.51:44.49)で按分すべきだとして、申告漏れを指摘。消費税と地方消費税合計で1,800万円弱の追徴課税をしたことから争いとなったものです。

東京地裁は、「固定資産税評価額による価額比を用いることは、一般的には、その合理性を肯定し得ないものではない」としながらも、「当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ、その結果、固定資産税評価額と異なる評価がされ、価額比においても実質的な差異が生じた場合には、もはや固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ、適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのがより合理的となるというべき」と説示しました。

その上で東京地裁は、原告不動産業者の求めにより裁判所が鑑定人を選定し実施していた不動産鑑定に関し、鑑定評価額は適正と認め、「鑑定評価額比率は77.30対22.30であり、建物の価額が占める割合について相当な乖離が生じており、消費税の課税標準を算出するに当たって実質的な差異が生じているものといえる。そうすると、(中略)、固定資産税評価額比率による按分法を用いる合理性を肯定する根拠は失われており、鑑定評価額比率による按分法を用いることが相当」として、消費税と地方消費税合計約1,500万円の追徴を取消したのです(確定)。

建物価額がこの事案のように高額になる場合、費用を負担して不動産鑑定を実施し、消費税の申告・納付に備えることも、消費税を払い過ぎないためには悪くない選択といえそうです。

[ 遠藤 純一 ]

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