Topics
TACTトピックス

過去の相続時精算課税制度申告を失念すると、こんな不都合が

2020.01.07

過去に相続時精算課税制度を選択して現金の贈与を申告していた納税者が、その選択を忘れてトラブルになった事例が明らかになりました(国税不服審判所、平成31年2月22日裁決)。

相続時精算課税制度とは、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、20歳以上の子・孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度。税負担は贈与額2500万円までは特別控除により事実上贈与税が課税されず、それを超える金額の贈与には20%の税率で課税されます。その見返りとして、この組み合わせで直系尊属である父母等の相続が開始した場合には、相続税の計算上相続時精算課税制度でもらっていた財産を相続財産に加算し、相続税が算出される場合にはこの相続税から支払い済みの贈与税を引いて精算する仕組みです。この選択は、いったん行われると後で解消することができないのが特徴。このため、いったん選択した後、間違って通常の贈与税の計算方法である暦年課税で申告してしまうと、不都合が生じることになります。

トラブルになった事例は、納税者Aさんが平成24年に父親から現金をもらっていたことに端を発します。裁決書によると、Aさんはこの際の贈与税の申告にあたり、B税理士にお願いして、父親を特定贈与者とする相続時精算課税選択届出書を添付し、贈与税の申告書を法定申告期限内に税務署に提出してもらいました。

その後、Aさんはまた、平成28年に父親からまとまった現金贈与を受けました。この際もB税理士にお願いして贈与税の申告をしたのですが、B税理士は、以前相続時精算課税制度を選択していたことをまるっきり忘却。申告は暦年課税によりその課税価格及び税額を計算したものを提出してしまいました。しかも申告書には、相続時精算課税制度の特別控除の残りを適用する旨の記載もしていなかったということでした。

後で気付いたAさんは平成29年になって、平成28年分の贈与税につき誤って暦年課税により申告し、相続時精算課税制度の特別控除の適用がなされていないことを理由に、贈与税を訂正する「更正の請求」をしました。ところが税務署から更正すべき理由はないとされたうえ、税額に誤りがあったため更正処分を受けたということです。このためAさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)で争うことにしました。

審判所は、相続時精算課税制度の特別控除について、法律上、期限内申告書にその特別控除を受ける金額、既に特別控除の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り適用すること(相続税法21条の1第2項)とされていることを確認。そのうえで審判所は「申告書にその記載がなかった理由はB税理士がAさんの平成24年分の贈与税の申告事績の確認を失念したことによるものと認められるところ、Aさんは、相続税法第21条の12第3項が規定する同条第2項に規定する所定の事項の記載がなかったことについて「やむを得ない事情」を何ら主張しておらず、当審判所の調査によっても上記「やむを得ない事情」は見当たらない。これらのことからすると、課税価格から本件特別控除額を控除することは認められない」と判断しています。

[ 遠藤 純一 ]

当サイトに掲載の文章等の無断転載を禁じます。
全ての著作権は税理士法人タクトコンサルティングに帰属します。
無断使用、無断転載が発覚した場合は法的措置をとらせていただきます。