無償返還届出書を提出した土地を譲渡した場合の譲渡所得の総収入金額
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【問】 個人甲は所有する土地Xを、甲が全株式を保有するA社に建物所有目的で賃貸していました。土地Xの賃貸借契約において、権利金の授受はなく、地代は相当の地代に満たない額でした。甲とA社は契約終了時に土地Xを無償返還する旨を合意し、賃貸借契約締結後に所轄税務署長に「土地の無償返還に関する届出書」を提出しています。A社は土地X上に建物Yを建築して上場会社のB社に賃貸し、また貸借対照表上には借地権を計上していません。その後も契約関係に変更はありません。このたび、甲が土地Xを、A社が建物YをB社に一括譲渡することになりました。その売買契約において土地の売買代金と建物の売買代金を区分する場合、甲の譲渡所得の金額の計算上、総収入金額とすべき額は①土地代金の全額、又は②土地代金からA社の借地権相当額を控除した額のどちらになるのでしょうか。 |
【回答】
1.結論
令和8年5月14日大阪高裁判決(原審・大阪地裁令和7年1月17日判決。以下「本件判決」)の考え方によれば、後記2(2)と(3)の契約関係及び代金の帰属が認められる限り、甲の総収入金額は①の土地Xの売買代金の全額になると考えられます。ただ、その結論は無償返還届出書の提出だけで直ちに導かれず、売買契約上の土地・建物の代金区分、借地権譲渡の有無、代金の受領者や当事者間における代金配分の実態等を考慮しての判断が必要です。
2.理由
(1)無償返還届出書の税務上の位置付け
権利金の授受がなく、地代が相当の地代に満たない場合でも、無償返還の合意と届出があれば、法人税基本通達13-1-7により、借地法人に対し、借地権設定時の権利金相当額の認定課税は行われません。同通達は借地法人の法人税上の取扱いを定めるもので、個人地主の譲渡所得の総収入金額の取扱いを直接定めるものではありません。本件判決は、無償返還の合意及び届出後の契約関係により示された経済実態を、個人地主の譲渡所得課税においても前提として判断しています。
(2)本件判決のポイント
本件判決は、複数の者が各自の資産を第三者に一括して有償譲渡した場合、各所有者の総収入金額は、売買の対価のうち、その者に帰属すべき資産の増加益が具体化した金額によるべきものとしました。その上で、無償返還の合意及び届出により、課税関係上、借地権部分に相当する経済的価値は借地法人に移転せず地主に残っていたこと、買主との売買契約で土地代金と建物代金が具体的に区分され、土地代金にその経済的価値も含まれていたこと、売買代金が地主名義の口座に振り込まれたことなどから、土地代金の全額を地主の総収入金額と判断しています。また、地主と借地人との間の売買代金の配分合意は、買主との関係で借地権の譲渡対価を定めたものではなく、受領した売買代金の分配にすぎないと評価しています。
(3)本問へのあてはめ
本問では、届出後も無償返還の合意を含む賃貸借関係に変更がなく、B社との契約で甲が土地Xを、A社が建物Yをそれぞれ譲渡し、土地代金と建物代金が各資産の価値を反映して合理的に区分され、土地代金の全額が甲に帰属すると認められる場合には、課税関係上、借地権部分に相当する経済的価値はA社に移転せず、甲に残っていたものと考えられます。したがって、甲の譲渡所得に係る総収入金額は土地代金の全額となり、A社に私法上の借地権が成立していることのみを理由として、その借地権相当額を控除することはできないと考えられます。
3.留意点
仮に甲が土地代金の一部をA社に分配した場合であっても、その分配額が当然に甲の譲渡所得に係る総収入金額から控除されるものではありません。その支払については、合意の内容、支払原因及び甲とA社との関係等に応じ、甲又はA社に別途の課税関係が生じる可能性があります。また、無償返還届出書が提出された貸宅地を相続税評価上、原則として自用地価額の80%相当額で評価する取扱いは、譲渡所得に係る収入の帰属を定めるものではなく、その割合を本問における土地代金の配分にそのまま用いることはできません。
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