療養のため転地したら、自宅に小規模宅地等の特例の適用が認められなくなった事例
1.はじめに
療養のため転地したことが、相続税の合法的な節税の妨げになる事例が明らかになりました(国税不服審判所令和7年12月11日裁決、情報公開による)。
この事案は、納税者Aさんが病気の妹(被相続人)と母親を伴い、自宅から離れて治療に専念するため病院の近場にある場所に転地していたケースでした。
争点は、転地する前の自宅が「小規模宅地等の特例」の適用できる特定居住用宅地等に該当するかどうかというものでした(本稿で他の争点は割愛します)。
税務署が生活の本拠は転地先で、自宅ではないとして否認したため、正しいのはどちらか、最終的に国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことになったのです。
2. 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人の住んでいた宅地を相続した場合に、その宅地等のうち所定の要件を満たした宅地での相続税の課税対象額を減額する制度です。本件では居住用の宅地330㎡までについて、相続税の課税対象額を最大80%減額するものです。
3. 事案の概要
(1)妹(被相続人)が死亡し相続人は母親のみであった。
(2)亡き妹の相続財産には、住民登録のあった家屋と敷地(以下、自宅という。)があり、母親は、その家屋と土地の所有権を相続した。
(3)母親は、令和3年3月、公正証書によって、遺言の効力発生時に母親が有する一切の財産をAさんに相続させる旨の遺言をした。
(4)母親は、上記相続に係る相続税の申告書を提出することなく死亡し、相続が開始した。法定相続人は、Aさんのほかに、母親の長男、次男もいたが、公正証書遺言があったため、Aさんのみが母親から妹に係る相続税の申告及び納税義務を承継した。
(5)被相続人(妹)と母親が死亡した場所は、C市に所在する転地先のD居室であった。もっとも、請求人等の住民票上の住所は、昭和62年2月26日以降、自宅が存するEであり、亡き妹及び母親の住民票上の住所は、それぞれ死亡の日まで異動はなかった。
(6)Aさんは承継した相続税につき、自宅の土地に小規模宅地等の特例を適用して申告期限までに提出した。
(7)税務署は、亡き妹がその相続の開始の直前において、自宅に生活の拠点を置いていたとは認められないから、自宅の土地について小規模宅地等の特例を適用することはできないなどとして更正処分をした。
(8)Aさんはマイホームを譲渡した場合の特例の取扱いを定めた措置法通達31の3−2を引き合いに、次のように主張しました。
「被相続人(妹)は転地療養の場として一時的な使用目的で転地先の居室に入居し、病状が回復した暁には自宅において生活を再開することを家族の総意としていた。転地先居室は生活の拠点には当たらず、住民票のある家屋が生活の拠点である」
4. 審判所の判断
審判所は、「ある宅地等が、相続開始の直前において、この特例の適用対象となる被相続人等の「居住の用に供されていた宅地等」に当たるか否かは、生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべき」と基準を示しました。
もっとも「相続開始の直前において、被相続人等が当該宅地等を敷地とする建物において現実に起居していなかった場合であっても、それが一時的なものであって、被相続人等が当該建物に生活の拠点を置いていたといえるときには、当該宅地は、被相続人等の「居住の用に供されていた宅地等」に当たる」とも述べました。
上記を踏まえ、審判所は具体的な検討において、「被相続人が自宅で現実に起居することが極めて困難な状況にある一方で、転地先居室は被相続人の生活の拠点たり得る場所であったこと、以後、これらの客観的状況に格別の変化はみられず、被相続人は、2年余りという少なくない期間にわたって、転地先居室で現実に起居し続けていたこと」から、それが「一時的なものであったとはいえない」と判断しました。
Aさんは、必要に応じて自宅に帰っていたことや、家財・貴重品等を置いていたことなどを主張しました。
しかし審判所は上記の事情について「病状が回復すれば本件家屋に戻ることを決意していたことを推認させるものではあるが、Aさんが自宅を管理していたことを示すものではあっても、被相続人が本件家屋に生活の拠点を置いていたことを基礎付ける事情であるとはいえない。」として、税務署の処分を支持しました。
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