資産管理会社の株特外しを無効化する評価通達189なお書きが適用された事例
1.はじめに
取引相場のない株式は、相続や遺贈、贈与などがあったときに、その会社の保有する資産を国税庁の財産評価基本通達(以下、評価通達という。)に従って評価することを前提にしています。
株式等保有特定会社とは、その財産の評価額の合計額に占める株式や出資、新株予約権付社債(以下、株式等という。)の金額の割合が50%以上である場合の会社のことをいいます。相続税・贈与税の計算上、非公開の株式等保有特定会社の発行した株式の評価方法は、原則として純資産価額方式またはS1+S2方式により評価されるため、上場会社の株価を参考に評価する類似業種比準方式による評価額よりも高くなりがちです。
このため発行株式の相続等の際に節税しようと、発行会社が株式等保有特定会社にならないように資産構成を変える「株特外し」が行われがちです。
ところが最近、行き過ぎた「株特外し」に対し、税務当局が否認する事例が増えてきました。
2. 新たな事例が
このほど、明らかになったのは、資産管理会社A社の代表取締役を務める祖父が、令和2年9月、孫XにA社の株式30株を贈与したケースで、税務署から贈与税の増額更正を受け、Xが国税不服審判所(以下、審判所という。)に更正処分の取り消しを求めた裁決事例です(国税不服審判所令和 7年9月5日裁決:情報開示請求による)。
事案の概要は次のとおりです。
①A社は、孫Xの父が代表取締役を務める上場会社B 社の筆頭株主だった。
②A社は、同社株式の贈与の2日前に約15億円もの賃貸不動産をB社から購入し、「株特外し」を実行。
③不動産購入の際に、金融機関から13億円(令和32年9月までの359回返済)、父から2億8千万円(令和5年9月末に一括返済)の借入を行った。
④贈与税の計算では、A社株式を取引相場のない株式として、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式で株価を評価して申告。
⑤所轄税務署は令和5年9月に税務調査に入り、翌年6月、評価通達189のなお書きにより、贈与直前に行われたA社によるB社からの不動産購入に合理性はなく資産構成に変動はなかったものとしてA社を株式等保有特定会社と認定、株式等保有特定会社の株式の相続税評価では、S1+S2方式を採用し贈与税を増額更正した。
3. 裁決のポイント
評価通達189のなお書きは、評価の対象となる会社が、株式等保有特定会社に該当する評価会社かどうかを判定する場合に、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社に該当すると判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定を行うという取扱いです。これがこの事案のポイントでした。
4. 審判所の判断
審判所は、不動産の取得・借入れにより、合理的な理由もなくA社の資産構成が変動し、その変動はA社が株式等保有特定会社と判定されることを免れるためかどうかを争点としました(ほかの争点は割愛します)。なお書きについては資産構成の変動操作で時価がゆがめられるようなケースにも対処する必要があると認めました。
その上で、審判所は次のような事実を指摘しました。
(1)贈与者は、節税の提案を受けてA社による不動産の購入及びA社株式の贈与を決断、贈与の2日前に、不動産の取得・借入れが実際行われている
(2)A社が不動産の購入代金の全額を外部から資金調達したのは、 9億円を超える現金預金残高を減少させず、A社の総資産価額を増加させることで株式等保有割合を50%末満にするためであった
(3)不動産の購入代金の全額を外部から資金調達してA社の総資産価額を増加させた結果、A社の株式等保有割合が贈与日の直前に50%以上から50%未満に実際に変動した
(4)A社株式の贈与に不動産の取得・本件各借入れを近接させた一連の行為は、A社が株式等保有特定会社と判定されることを回避するための総資産価額の操作に当たる
上記などを踏まえ審判所は、A社につき株式等保有特定会社に該当すると判断しています。
Xは「不動産は、A社が賃貸事業の拡大を求めて購入したもの、取得原資を借入金としたのは、現金預金は不測の事態等の資金として留保するもので合理的理由がある」と主張しましたが、認められませんでした。
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