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TACTニュース
No.969

不動産を買った時の土地建物の価額按分が不合理と指摘された場合

1.はじめに

土地建物の一括売買では、契約書において土地と建物の購入の対価を記載するのが通常でしょう。ただしその金額が不合理だと税務署から指摘されるケースが散見されます。また、契約までの交渉において土地建物一括での売買価額に合意はできたものの、土地建物のそれぞれの価額を契約書に明示していない場合があります。この場合は、当事者が合理的な方法で土地建物の価額を各々按分することが求められますが、それが合理的でないとして税務署の指摘を受けるケースも見られます。今回は、不動産取引でしばしば税務上の問題として浮上する「土地建物の価額按分」を巡る最近の所得税等に関する事例とその根底にある考え方に着目します。

2. 土地建物の按分方法

土地建物の価額の按分方法が税務上の問題としてスポットを浴びるのは、所得税・法人税や消費税においてです。
というのも建物は減価償却資産だからです。建物の取得費を正しく算出しておかないと、きちんとした減価償却費の計算ができません。
一方、土地の譲渡は消費税が非課税でも、建物の譲渡は消費税がかかる資産の譲渡という一面もあります。すなわち消費税の税額計算においても建物の価額を算出することが必要になっているのです。
具体的な按分方法としては、①譲渡時における土地および建物のそれぞれの時価の比率による按分、②相続税評価額や固定資産税評価額を基にした按分、③土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含む。)を基にした按分があります(国税庁HPタックスアンサー№6301)。
このうち最もよく利用されるのは、土地建物の固定資産税評価額の比で按分する方法です。固定資産税評価額は誰にでも入手しやすく、按分比を求めるのに簡便かつ信頼性もあるからです。
ところが最近では、売買において土地建物の価額按分が不明、あるいは不合理と認められる場合、税務署が土地建物の固定資産税の評価額比に基づく価額按分を基本としながら、より合理的な土地・建物の不動産鑑定評価額比がある場合には、それによりに按分し直して、所得税等の増額更正処分をするケースが明らかになってきました。

3. 最近の事例から

不動産貸付等を行う個人事業主Aさんが、第三者から土地及び建物を繰り返し一括して購入し、契約書上自前の土地・建物の按分価額により不動産所得に係る減価償却費及び消費税等の仕入税額控除の計算について、税務署がノーを突き付けた事例です(国税不服審判所令和 6年11月14日裁決)。
税務署は売買契約書に記載された土地・建物の売買価額の配分が著しく不合理であるとして、これらの固定資産税評価額の価額比に基づいて建物の取得価額及び課税仕入れに係る支払対価の額を算定すべきであるなどとして、所得税等及び消費税等の更正処分等をしました。
これに対しAさんが、売買契約書に記載された建物の売買価額を基に取得価額等を算定すべきとして、税務署の更正処分等の取消を求めて、権利救済機関である国税不服審判所(以下、審判所という。)に審査請求したものです。
審判所の結論は、土地・建物それぞれの購入の対価が約定されているケース、約定されているかどうか明かとは言えないケースのいずれも、固定資産税評価額による価額按分に比して偏りがあり、納税者の価額按分が不合理であるといえるから、原則として、合理的な価額按分方法である固定資産税評価額による按分によるべきとしました。
ただし、法定耐用年数経過後においても現在に至るまで継続的に利用されている物件など個別事情を考慮した適正な鑑定評価(一部の物件について再調査請求時に提出)がなされたものについては、固定資産税評価による按分価額を支持せず、鑑定評価に基づく按分が合理的だとして、取得した物件のうち4件については鑑定評価による価額按分を認め、減価償却費及び仕入税額控除に係る更正処分のうち一部を取り消しました。

この裁決のポイントは、次のとおりです。
①売買契約書に記載等された土地建物の価額ついて、固定資産税評価額による価額按分に比して偏りがあり不合理な場合は、原則として、一般的な合理性のある固定資産税評価額による按分によること。
②固定資産税評価ではそぐわない物件について適正な不動産鑑定が行われている場合はその鑑定価額による按分価額によること。 

[ 遠藤 純一 ]

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