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TACTニュース
No.750

預金の口座番号を記載した信託契約は無効?

2018.08.27 信託

【問】

民事信託の活用を検討しています。信託の効力発生時の信託財産を特定するために、信託契約に預金の口座番号を記載すると信託契約そのものが無効になると聞きましたが、本当でしょうか?

【回答】

1.結論

預金債権には譲渡禁止特約が付されていることから、信託の効力発生時の信託財産を特定するために信託契約に預金の口座番号を記載した場合には、その信託契約そのものが無効になるという主張があります。
しかし、譲渡禁止特約は金融機関の承諾により解除されるものであり、承諾があれば有効な譲渡ができることから、実務上、筆者が確認できた限りでは、預金の口座番号の記載があるというだけでその信託契約が無効となるとはされてはいません。預金の口座番号の記載がある信託契約においては、委託者等の解約権限のある者が預金口座を解約して払い戻しを受け、一度金銭にした上で、新たに開設した受託者の口座に預け入れること等により、信託を実行できています。

2.解説

(1) 債権の譲渡性

民法上、債権は原則として自由に譲渡することができますが、当事者が反対の意思を表示した場合には、これに制限を加えることができます(民法466)。

(2) 預金債権の譲渡禁止特約

銀行では、譲渡性預金を除き、預金者との取り決め(規定)により、預金債権の譲渡禁止の特約(本稿において、「譲渡禁止特約」)を設けています(預金通帳や証書には、一般的に譲渡を禁止する旨の記載があります)。これは、銀行としては預金者を特定しておく必要があり、また貸出金との相殺がある場合等があることから、自由に譲渡されることを防止するためです。
なお、金融機関が譲渡につき承諾をすればこの譲渡禁止特約は解除されます。

(3) 信託の方法

信託は、信託契約・遺言・自己信託の3つの方法のうちいずれかの方法によってすることができ、信託を設定
するこれらの法律行為のことを信託行為といいます(信法2②)。このうち、信託契約と遺言による場合には、委託者から受託者への信託時の債権の移転は譲渡と位置付けられます(自己信託は、自らの財産を自ら管理処分等する意思表示)(信法3)。したがって、信託契約や遺言においては、譲渡が禁止・制限されている財産につき信託時の信託財産とすることができない場合があります(自己信託の場合も、ある財産の譲渡が禁止・制限された目的等によっては、自己信託の設定につき否定的に見る向きもあります)。

(4) 実務上の対応

信託契約や遺言により預金債権を信託した場合、その行為は法律上譲渡と認識されるため、譲渡禁止特約に抵触します。したがって、信託設定時の財産としては、預金債権(口座番号等)を記載するのではなく、「金銭XX円」と記載することが望ましいと考えます。
しかし、例えば、停止条件付の信託契約の場合や遺言による信託の場合には、将来の信託の効力発生時にいくらの金銭残高があるか予想できず、信託行為に「金銭XX円」と具体的な金額を明記することが難しい場合もあります。そこで、実務上は、信託財産を特定するために必要な記載として、預金の口座番号を記載することがあります。
これについて、信託行為に預金の口座番号を記載した場合には、信託行為そのものが無効となるという主張がありますが、筆者が民事信託に対応している大手銀行に問い合わせた限り、本稿執筆日現在の銀行実務では、例えば、「預金債権の信託」ではなく「預金口座内の "金銭"の信託」と解釈し、委託者等の解約権限のある者が信託の効力発生に際して預金口座を解約して払い戻しを受け、一度金銭にした上で、新たに開設した受託者の口座に預け入れること等により、信託を実行できています。

(5) 最後に

筆者はすべての金融機関の取扱いを確認したわけではないため、上記(4)後段の取扱いは金融機関によって異なる可能性がありますし、信託行為の条項等によっては金融機関が解約に対応できないことも考えられます。また、不仲の相続人がいる場合等には、信託財産の解釈をめぐってトラブルになる可能性もあります。
まずは信託する金銭の額を明記することを検討し、それが難しい場合には、例えば、信託財産目録に預金債権そのもの信託ではなく「X現在のX銀行X支店普通預金口座(口座番号XXX)内の残高相当額の金銭」の信託である旨を記載したり、信託行為の作成段階において金融機関に対応の可否を確認したりしておくと安心です。 

[ 宮田 房枝 ]

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