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No.734

相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の 特別控除における「譲渡対価要件」の留意点②

【問】

乙さんは、平成29年2月に亡母より家屋Cと宅地Dの持分2分の1を相続しました。家屋Cは、乙さんの父が昭和55年に自宅として建築した一棟の建物で、宅地Dは家屋Cの建築の際に乙さんの父が購入したその敷地です。
平成24年に父から相続により、乙さんと乙さんの母は、それぞれ宅地Dの持分2分の1を取得し、家屋Cは母が取得しました。乙さんの母は家屋Cと宅地Dの持分2分の1を取得後、死亡直前まで一人で家屋Cに居住し、母の死亡後、乙さんは家屋Cをずっと空き家にしており、宅地Dも特に使用していませんでした。
 乙さんは平成29年12月に家屋Cを取壊し、平成 30年4月に宅地Dを上場会社のY㈱に対価1億2,000万円で譲渡しました。乙さんは、宅地Dに係る譲渡所得の金額が多額になることから、その所得税の計算上、租税特別措置法(措法)35条第3項の「相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除」(以下「本特例」)の適用を受けたいと考えています。
本特例の適用を受けるためには、「特例の対象となる資産の譲渡対価が1億円を超えないこと」という要件がありますが、乙さんのように譲渡した資産(宅地D)の一部(持分2分の1)が亡母の居住用家屋の敷地(=本特例の適用対象となる資産)である場合、譲渡対価のうち特例の対象となる資産に対応する額(乙さんの場合は1.2億円×1/2=6,000万円)が1億円以下であれば、本特例の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論

乙さんの場合、宅地Dの譲渡対価1億2,000万円は、亡母より相続した「本特例の適用対象となる資産(以下「対象資産」)の譲渡対価」と、対象資産を譲渡した年と同じ年に譲渡した「他の資産の譲渡対価」の合計額であり、これが1億円を超えることから、措法35条第5項より本特例の適用を受けることができません。

2.理由

(1)本特例の概要

相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈(死因贈与を含む)により取得した個人(以下「居住用家屋取得相続人」)が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合は、一定の要件を満たすことにより本特例の適用を受けることができ、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できます(措法35条第3項2号、4項、措法施行令23条6項。なお、本特例の適用要件の詳細については、本紙№684を参照ください)。

(2)本特例の適用における、「譲渡対価が1億円を超えないこと」の要件

本特例の適用における、「譲渡対価が1億円を超えないこと」の要件を満たすかどうかの判定においては、次の①~③の全てに該当することが必要です。
①居住用家屋取得相続人(本問では乙)が対象資産(本問では、平成24年に亡父から相続した宅地Dの持分2分の1)を1回で譲渡する場合は、対価が1億円を超えないこと(同第 3 項)。
②居住用家屋取得相続人が対象資産を1億円以下の対価で譲渡した場合でも、その年中に 1 回目の譲渡に係る対象資産と一体的に居住の用に供されていた他の資産(本問の場合は、乙が平成24年に亡父から相続した宅地Dの持分2分の1)を譲渡したときは、これら譲渡の対価の合計額が1 億円を超えないこと(同第5項、措法通達35-22(1))。
③居住用家屋取得相続人が対象資産を1億円以下の対価で譲渡した後、その譲渡の翌年以降 3 年目の年末(以下「制限期間」)までに、対象資産と一体的に居住の用に供されていた他の対象資産を別途譲渡したときは、1回目の譲渡の対価(1回目の譲渡をした年中に2回目の譲渡をした場合は、2回目の譲渡の対価も含む。)と制限期間内の全ての他の対象資産の譲渡の対価の合計額が、1億円を超えないこと(同第6項)。

(3)本問へのあてはめ

本問の場合、宅地Dの譲渡対価は、【平成29年に亡母より相続した「対象資産」の譲渡対価】と、【平成24年に亡父より相続した「他の資産の譲渡対価】の合計額であり、これが1億円を超えることから上記②の要件を満たすことができません。したがって、乙さんは平成30年分の所得税の計算上、本特例の適用を受けることができません。

[ 山崎 信義 ]

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