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TACTニュース
No.723

小規模宅地等の特例に入る規制とその背景

1. 小規模宅地等の特例に規制

昨年、閣議決定された「平成30年度税制改正大綱」(以下、大綱という)によると、相続税の「小規模宅地等の特例」(以下、特例という)について、貸付事業用宅地等に対する適用要件を厳格化し、あからさまな節税方法を防止する対策が盛り込まれました。
同特例は、土地を相続した場合に適用できる税制上の特例です。住んでいる家や生業である事業用の土地を所定の要件のもと、相続税の計算上、課税対象となる価額を一定割合減額して優遇しようというものです。
このうち貸付事業用宅地等として対象になる宅地等は、被相続人の貸付事業の用に供されている宅地等で限度面積は200㎡までとなっています。貸付事業とは、不動産貸付業のほか、駐車場業、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものも含むこととされています。貸付事業用宅地等の減額割合は50%です。

大綱によると、「貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3 年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3 年を超えて事業的規模で、貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供しているものを除く。)を除外する。」とされています。
これにより相続開始直前に収益不動産を購入して、相続税の申告ではこの特例の適用により節税し、すぐに対象の不動産を売却するといった対策に一定の歯止めをかけることになりそうです。
気になるのは、「相続前3年超」「事業的規模」といった条件が導入される点です。

2. 事業規模のこと

この特例について、不動産貸付事業に関して「事業規模」判定基準が導入されるのは、昭和63年度税制改正の制度以来のことではないでしょうか。平成6年のこの特例の抜本的改正で、この「事業的規模」判定基準はなくなりますが、ここへきて再登場ということになります。
昭和63年度税制改正以前は、事業と称するに至らない規模の不動産貸付でも特例の対象でしたが、昭和63年度税制改正で事業的規模に限る規制が入ったことに伴っていろんなことが起こりました。
たとえば、個人が事業的規模で不動産貸付を行っているかどうかをめぐり、平成の当初、税務署と相続人が争う税務トラブルが多発したことがそれです。また都心立地のビル事業で貸室3室をもって事業的規模と認めた裁判の判決が出たこともあり(タクトニュース№716参照)、当時、不動産の貸付事業を行う納税者にとって関心の高い話題になっていました。
それだけに、どのように「事業的規模」判断基準について今後決められるのか、注目されるところです。
「事業的規模」の概念については、大綱でははっきりと示されていません。仮に昭和63年度税制改正と同様に、所得税の不動産所得における事業的規模の判定基準を借用するものだとすれば、いわゆる貸家5棟、貸室10室という外形的基準を事業的規模判定に用いるものとなります。 
現行の所得税基本通達26-9では、「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべき」ものとされています。
具体的には、特に反証がない限り「⑴貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。⑵ 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること」の基準を満たせば「事業規模」と判定される仕組みです。もちろん、この規模を満たさなくても「事業規模」とされる余地を残した形にはなっています。
このほか、土地の貸付がある場合には、1室の貸付けに相当する土地の貸付件数を「おおむね5」として判定するという取扱いもあります(東京国税局 所得税 消費税 誤りやい事例集)。

3. 改正の背景

国税庁では、以前から相続開始直前に高額な貸付不動産を購入して、特例を適用することにより貸付不動産の敷地の課税価額を減額し、申告後に貸付不動産を売却するというケースに目をつけていました。
実際に国税庁の平成28年度版「税制改正意見」では、節税封じ案として「相続税の申告書の提出期限の翌日以降3年を経過する日までの間に貸付事業用宅地等を譲渡した場合には、貸付事業用宅地等に該当しないものとする」旨の要件を追加し、譲渡した場合には4か月以内に修正申告書を提出し、その期限内に小規模宅地等の特例の適用がなくなることにより増えた税額を納付することを義務付ける特則を設けるというもので、実現はしませんでした。今回、新たな縛りを得て規制が実現することになったわけです。 

[ 遠藤 純一 ]

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