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No.718

相続により取得した株式と、これ以外の同一銘柄の株式を有する場合の相続税の取得費加算特例

【問】

Aさんは、平成29年11月に保有する甲社株式(上場株式)2,000株のうち1,000株を証券市場で譲渡しました。Aさんは、甲社株式1,000株を平成28年3月に亡父より相続した際に相続税を納税していることから、甲社株式の譲渡に係る所得税の譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(措法)39 条の「相続税の取得費加算特例」の適用を受けようと考えています。ただ、Aさんは亡父からの相続前にすでに甲社株式1,000株を証券市場において購入しており、今回の譲渡が相続前に購入した株式の譲渡とされて、特例の適用が受けられないのではないかと心配しています。Aさんのように、相続等により株式を取得した個人が、相続前よりその株式と同一銘柄の株式を有している場合に、これらの株式の一部を譲渡したときであっても、相続税の取得費加算特例の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論

租税特別措置法通達(措通)39-12より、Aさんが譲渡した甲社株式については、その株式に係る譲渡所得の金額の計算上、相続税の取得費加算特例(以下「本特例」)の適用が認められます。

2.解説

(1)本特例の概要
相続又は遺贈(「相続等」)により財産を取得した個人が、相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内に、その相続税の課税価格の計算の基礎に算入された財産を譲渡した場合は、取得費に次の算式により計算した金額が加算されます(措法39条、措法施行令25条の16)。
本特例の適用を受けることにより、相続税のうち取得費に加算された金額だけ譲渡所得の金額が少なくなるので、結果として課税される譲渡所得の金額が小さくなります。

(算式)
譲渡者が納付した相続税額×A/B
A:譲渡者が相続等により取得した財産のうち譲渡したものの相続税法上の評価額
B:譲渡者が相続等により取得した財産の相続税法上の評価額の合計額

(2)相続等により株式を取得した個人が、これ以外の同一銘柄の株式を有する場合に、これらの株式の一部を譲渡したときの本特例の適用

表題のケースでは同一銘柄のため、相続等により取得した株式と相続前より保有する株式が混ざってしまい、どちらの株式を譲渡したのかはっきりしないことから、その株式の譲渡について本特例をどのように適用するのかが問題となります。この点については、法令上特段の規定がされていませんが、所得税基本通達(所基通)33-6の4は、同一銘柄の株式のうちの一部を譲渡した場合、譲渡所得に係る所得税の計算については、「先に取得したものから順次譲渡したもの(=先入先出法)として取り扱う」こととしています。このため、この通達の取扱いとの整合性を考慮して、本特例の適用においても先入先出法により判定すべきという考え方もできます。

しかし、国税庁は措通39-12により、相続人が相続等により取得した株式とこれ以外の同一銘柄の株式を有する場合に、これらの株式の一部を譲渡したときは、本特例の適用においては、相続により取得した株式から優先的に譲渡したものとして取扱うことを認めています。国税庁がそのような取扱いを認める理由について、大蔵財務協会「平成29年版 株式等の譲渡所得等関係 租税特別措置法通達逐条解説」1252頁~1253頁は次の説明をしています。

①同一銘柄の株式は、相続財産であっても相続人固有の財産であっても資産としての性質は同一であり、どちらかを譲渡したとしてもこれを区別して特例の適用を判定する合理性は乏しく、相続等により取得した株式を譲渡したことが明らかであることを条件に、特例の適用を認めることは現実的ではないこと。
②所基通33-6の4の先入先出法による取扱いは、いずれの株式から譲渡したかが判然としない場合に譲渡所得の長期・短期の区分を納税者有利に取扱うものであり、この取扱いを本特例に準用した結果、納税者にとって不利になるとすれば問題であること(筆者注)。

(注)現在、株式の譲渡に係る譲渡所得は分離課税とされ(措法37の10、37の11)、株式の保有期間の長短による課税上の違いはないことから、株式の譲渡に係る譲渡所得の長期・短期の区分は不要です。株式の譲渡に係る譲渡所得の計算上、所基通33-6の4の取扱いを活用する機会はなく、本特例の適用に際して同通達の取扱いとの整合性を主張することには説得力がないといえます。
以上により、Aさんが譲渡した甲社株式については、その譲渡所得の金額の計算上、本特例の適用が認められます。

[ 山崎 信義 ]

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