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No.714

被相続人の自宅敷地を海外居住の相続人が取得した場合の相続税の小規模宅地等の特例の適用

東京都S区に居住していた甲さん(国籍:日本)は、平成29年8月に死亡しました。甲さんの相続人は甥のAさん1人です。被相続人の甲さんは、亡夫から平成17年にS区所在の自宅とその敷地(宅地B)を相続後、死亡の時までそこにひとりで居住していました。一方、商社に勤務するAさん(国籍:日本)は、仕事の都合で平成24年に夫婦で渡米後、ずっと米国を生活の本拠としており、Aさん夫妻は日本国内に自宅を有していません。Aさんは甲さんに係る相続税の申告期限後も宅地Bを所有するつもりですが、米国を生活の本拠とすることから、宅地Bに建つ甲さんの自宅だった家屋に居住するつもりはありません。
甲さんから相続した宅地Bが路線価の高い地域に所在することから、Aさんは甲さんに係る相続税の計算上、宅地Bが租税特別措置法(措法)69 条の 4 第 3 項2号の「特定居住用宅地等」に該当するものとして、同法に規定する「小規模宅地等の特例」の適用を受けようと考えています。Aさんのように海外に居住し、かつ被相続人から相続したその自宅に居住するつもりがない相続人についても、その自宅の敷地(宅地B)につき特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることができますか。

回答

1.結論

甲さんに係る相続税の計算上、Aさんが相続した宅地Bは特定居住用宅地等(措法69条の4第3項2号ロ)に該当するため、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

2.解説

(1)特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例

個人が相続又は遺贈(以下「相続等」)により取得した財産のうち、その相続等の開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が「特定居住用宅地等」に該当する場合は、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、その宅地等の最大330㎡までの部分につき、その価額の80%相当額を減額します。これを「特定居住用宅地等に係る相続税の小規模宅地等の特例」(以下「本特例」)といいます(措法69条の4第1項)。

(2)相続開始時に被相続人と別居していた親族が、被相続人の居住用の宅地等を相続等により取得した場合の特定居住用宅地等の適用要件

相続開始の時において被相続人と別居していた親族が被相続人の居住用の宅地等を相続等により 取得した場合は、次の①~⑤の要件を満たすことにより、その宅地は特定居住用宅地等に該当し、本特例の適用対象とされます(同第3項2号ロ、措法施行令40条の2第11項)。
①被相続人に配偶者がいないこと
②相続開始の直前において、その被相続人の居住 の用に供されていた家屋に居住していた親族で、その被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)である人がいないこと。
③被相続人の居住用の宅地等を相続により取得した親族(以下「取得者」)が、相続開始前3年以内に日本国内にある、その人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと。
④取得者が、相続等により取得した被相続人の居住用の宅地等を、相続税の申告期限まで継続して所有すること。
⑤相続開始の時において、取得者が【[1]相続税法1条の3第1項3号又は4号に該当する者であり、かつ[2]日本国籍を有しない者】に該当しないこと(措法施行規則23条の2第4項)(注)。
(注)⑤[1]の相続税法1条の3第1項3号と4号の規定の詳細はスペースの関係で省略しますが、同3号に該当する可能性がある日本に住所がある人も、同4号に該当する可能性のある日本に住所がない人も、日本国籍を有する者(=日本国籍を有しない者ではない)であれば[2]の要件には該当しないので、⑤の要件を満たします。

(3)あてはめ

Aさんのケースでは、①甲さんには配偶者がおらず、②甲さんには相続開始の直前において同居していた相続人がおらず、③Aさん夫妻は、甲さんの相続開始前3年以内に日本国内に自宅を所有せず、④Aさんは甲さんに係る相続税の申告期限まで甲さんの居住用の宅地等(宅地B)の所有を継続する見込みであり、⑤相続開始の時において、被相続人の甲さんの居住用の宅地等(宅地B)を相続により取得した親族のAさんは、国内に住所を有しないものの日本国籍を有しており、上記(2)①~⑤の要件を全て満たします。よって、甲さんに係る相続税の計算上、Aさんが相続により取得した宅地Bについては、本特例の適用を受けることができます。

[ 山崎 信義 ]

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