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No.710

平成29年度税制改正:相続税の物納できる財産の順位と種類の見直し

1.物納の概要

相続税法では、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として、金銭以外の一定の財産による納税(物納)が認められています(相続税法(相法)41条第1項)。物納の許可を申請する者は、原則、物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出することが必要です(相法42条)。

2.平成29年度税制改正の概要

(1)物納財産の種類と順位

相続税の物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税の適用を受ける財産を除く。)で、日本国内に所在するもののうち一定のものをいい、譲渡制限が付されている株式など一定の財産は、管理処分に不適格な財産として物納財産から除外されています(相法41条2項、相法施行令(相令)18条)。
物納財産が複数ある場合、相続税法上、物納に充てることができる財産の順位(以下「物納順位」)が定められています(相法41条第2項、第5項)。

(2)改正の概要

平成29年度税制改正により、(1)の物納財産の順位と種類が見直されました。まず、改正前は物納順位が第2順位であった社債、株式及び証券投資信託又は貸付信託の受益証券のうち、換価の容易な[1]金融商品取引所に上場されているもの及び[2]証券投資信託の受益証券で金融商品取引所に上場されていないもののうち一定のものが、第1順位に引き上げられました(相法41条第5項、相法施行規則(相規)21条の2第2項)
また、金融商品取引所に上場されている新株予約権証券など一定の有価証券が、第1順位の物納財産に追加されました(相法41条第2項2号ヘト、第5項、相規21条の2第1項)。
この改正は、平成29年4月1日以後の物納の申請より適用されています。

(3)改正後の物納財産の種類と物納順位

改正後の物納財産の種類と物納順位は次の通りです。物納劣後財産(注)を含めた物納順位は、①~⑤の順になります。
<第1順位>
①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(前述(2)の物納の第1順位とされる有価証券をいう。)
②不動産及び上場株式等のうち物納劣後財産に該当するもの
<第2順位>
③非上場株式等
④非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
<第3順位>
⑤動産
(注)物納劣後財産とは、例えば建築基準法に規定する道路に2メートル以上接していない土地や、事業を休止(一時的な休止を除く。)をしている法人に係る株券など換金が難しい財産をいいます(相法41条第4項、相令19条)。

3.留意点

2の改正により納税者にとって物納制度の利便性が向上されましたが、その一方で物納が許可される相続税額(物納許可限度額)の計算方法は、従前より改正されていませんので、注意を要します。
物納許可限度額は、「延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、その納付を困難とする金額を限度として認める。」という制度趣旨にのっとり、納付すべき相続税額から金銭納付が可能な額や延納により納付が可能な額を控除して計算されます。
例えば、物納許可限度額の計算上、①納税義務者が相続税の納期限において有する現金・預貯金・ゴルフ会員権や生命保険など(納税義務者固有の財産も含む)の合計額や、②おおむね1年以内に発生が見込まれる退職金の受給など臨時的な収入から、事業用資産の購入等の臨時的な支出を控除した残額は、「金銭納付が可能な額」として控除されます。また、③納税義務者の年収等により計算した「延納により(相続税の)納付が可能な額」が控除されます(相令17条、相続税法基本通達41-1、同逐条解説)。
物納許可限度額の計算上は、物納を申請する納税義務者の固有の預貯金等の額や年収等も考慮され、その預貯金等の額や年収等によっては物納許可限度額がゼロとなり、物納に充てることができる財産があっても結果として物納自体が許可されないことがありえますので、注意が必要です。      

[ 山崎 信義 ]

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