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TACTニュース
No.671

共有物の分割と不動産取得税

1.はじめに

不動産の共有状態を解消する場合に行われるのが不動産現物の「共有物の分割」です。この場合、持ち分に応ずる分割がされる等の所定の要件を満たすと、譲渡所得に係る所得税がかからないケース(タクトニュース「No.608 【Q&A】共有持分の分割と所得税」参照)があるほか、登録免許税や不動産取得税の負担が軽くなることがあります。このうち登録免許税は、1000分の4に軽減されます(登録免許税法別表1)。また、不動産取得税では形式的な所有権の移転等に当たるとして非課税となります。ただし、当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得は除かれます(地方税法73条の7第2号の3(以下同規定という。))。

2.不動産取得税でトラブルになったケース

こうした中、最近、現物分割と代金分割の混じった共有物の分割で、不動産取得税が課税されるかどうかをめぐり納税者と東京都が争った事例のあることがわかりました(東京地裁、平成28年11月30日判決、納税者勝訴)。判決によると、A氏(原告)とB氏は、およそ360㎡の土地を共有で相続していました。持ち分はA氏が約44%、B氏が約56%でした。A氏とB氏は、平成25年にこの土地について、まず(ア)109㎡、(イ)137㎡、(ウ)115㎡の3筆に分筆しました。位置関係は(イ)の土地が真ん中で(ア)と(ウ)が互いに接する箇所のない形でした。その上で、(イ)の土地を第三者に3,900万円で売却し代金を分割、その後に、(ア)と(ウ)の土地について相互に持ち分を移転し、A氏は(ア)の土地を取得しました。A氏によると、代金の分割は、B氏が取得する土地の面積に換算すると137㎡中86㎡で、B氏の取得する(ウ)の土地と合わせると(86㎡+115㎡)201㎡になり、分筆前の土地全部の地積に対する持ち分の割合を乗じた地積(360㎡×56%)と一致し、その余の部分をA氏が分配を受けとる前提にしていたといいます。

3.隣接地でないと非課税にならない?

これに対し東京都は税務上、隣接していない共有地での共有物分割では、非課税とすることは出来ないとして課税しました。これは、「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(平成22年4月1日総税都第16号総務大臣通知、第5章不動産取得税、第1納税義務者及び課税客体)において次のように取り扱われているからです。「5の2(2)複数の共有地で互いに隣接し、その共有者が同一で、かつ、持分割合が同じである場合において、合筆することなく当該隣接する複数の共有地を一体としてとらえて当該持分に応じた分割をしたと認められるときは、一の共有物を分割した場合に準じて非課税として取り扱って差し支えないこと。」しかし東京都は、A氏のケースでは(ア)と(ウ)は隣接していなかったとして非課税とならないとしていました。

4.裁判所の判断

A氏からの提訴を受けた裁判所は、「共有物の分割の意義については、同法(地方税法)その他の関係法令において特段の定めがされておらず、民法上の共有物の分割と同義のものと解される。(中略)その方法として、①共有物を持分割合に応じて物理的に分割する現物分割、②共有物を売却してその売得金を分割する代金分割、③共有物を特定の共有者に帰属させ、この者から他の者に対して持分の価格を賠償させる価格賠償の3つの方法があり、(中略)共有者が自由に定めることができるものと一般に理解されており、また、(同規定)が新設された当時には、既に、最高裁大法廷の判決(最商裁昭和59年(オ)第805号同62年4月22日大法廷判決(中略))において、民法258条の規定による裁判上の共有物の分割につき、分割の対象となる共有物が多数の不動産である場合には、これらの不動産が数か所に分かれて存在するときでも、これらの不動産を一括して分割の対象とし、分割後のそれぞれの部分を各共有者の単独所有とすることも、現物分割の方法として許されるものであることが明らかにされていたものである。そうすると、(同規定)にいう共有物の分割も、(中略)共有物である複数の不動産を一括して分割の対象とし、現物分割、代金分割及び価格賠償の各種方法を適宜織り交ぜて行われる共有物の分割もまたこれに含まれるものとして規定されているものと解するのが相当であり、(中略)このような態様の共有物の分割を同号の規定対象から除外すべき実質的な理由はないものというべき」と説示、東京都側の主張について「上記の説示と相異なる見解であり、採用することができない」としています。

[ 遠藤 純一 ]

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