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TACTニュース
No.965

一団の宅地に用途の異なる建物がある時の小規模宅地等の特例の利用上の注意

1.はじめに

被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される小規模宅地等の特例を適用する場合には、選択する宅地の面積や宅地の単価を十分に意識する必要があります。

(表)小規模宅地等の特例の主な宅地の種類と限度面積と減額割合  

宅地等の種類 上限面積 減額割合
特定事業用宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%
特定居住用宅地等 330㎡ 80%

たとえば、一団の宅地に用途の異なる建物がある場合には、その按分の仕方に注意したいところです。同特例を適用するための相続税の申告等では、過少に宅地を選択すると、後で、適正な面積に拡大して修正しようとしても難しくなる場合があるからです(タクトニュース№959参照)。過少に面積を選択したため、後で面積の計算誤りがあったとして、更正の請求が認められるかどうかで裁判になったケースがあります(東京高裁令和7年4月16日判決・確定)

2.事案の概要

判決によると、問題になったのは特定事業用宅地等の面積。農家を継いだ納税者Aさんは平成31年、遺産分割協議により、自宅、納屋、倉庫などの建物とその敷地である2筆1団の宅地を取得し、申告期限まで保有するなど小規模宅地等の特例の要件を満たし、納屋の敷地について「特定事業用宅地等」の面積として75㎡と申告しました。ところが後で、倉庫なども特定事業用宅地等に含めるべきところ、事実誤認があったとして税務署に更正の請求で直してもらおうとしましたが、認められなかったという事案です。東京地裁の1審判決では、申告には問題がなかったので、更正の請求は「適用範囲を拡大することを求めるものである」と判断し、面積を直すことはできませんでした。

3.納税者の追加的主張

東京高裁でAさんは、宅地選択以前に誤りがあり、次のような面積の計算をすべきだったと追加主張しました。
・一団の土地等のうち、 2以上の建物等の用に一体的に利用されている部分については、当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎としてその上に存する各建物等の建築面積の比により按分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分を、当該各建物等の敷地部分とするとした地価税法取扱通達6-3(2)に従って面積を計算すると、納屋敷地部分の面積は154.56㎡となる。
・財産評価基本通達には一団の土地上に複数の建物が存在する場合の判断手法の定めはなく、そのため、地価税法取扱通達6-3の考え方に従って評価をするのが、実務上の考え方だ。

参考《地価税法取扱通達》(あん分計算の基礎となる土地等)
6‐3土地等が令第3条第3項に規定する「業務目的の用にも業務目的の用以外の用にも供されている」ものに該当するかどうかは、原則として一の建物等(同項第1号に規定する建物等をいう。以下9-2までにおいて同じ。)の用に供されている土地等(以下この項において「敷地部分」という。)ごとに判定するものとする。
この場合、一団の土地等の用途が単一でないときは、当該一団の土地等を、おおむね次のように区分し、整理した上で、それぞれに定めるところにより各建物等の敷地部分を判定するものとする。
(2)当該一団の土地等のうち、2以上の建物等の用に一体的に利用されている部分((3)の部分を除く。)当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎としてその上に存する各建物等の建築基準法施行令第2条第1項第2号((面積、高さ等の算定方法))に規定する建築面積の比によりあん分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分を当該各建物等の敷地部分とする。

4.東京高裁の判断

東京高裁は、追加主張について更正の請求をすることができる事由(国税通則法23条1項:課税標準や税額の計算が法律の規定に従っていなかった又は計算に誤りがある等)には該当しないと判断しました。

(1)明細書等において特定事業用宅地等に区分されている納屋敷地の面積(75㎡)については、当初申告に際し、現地確認を行った上で課税明細書や登記事項証明書を基にして選択特例対象宅地等の面積を算定した上、納屋の敷地46.58㎡及び車庫の敷地28.52㎡を合算した面積として特定したものと認められる。

(2)本件特例における選択特例対象宅地等の面積を算定するための計算に当たっては地価税法取扱通達による方法が唯一の計算方法というものではないから、上記に従った計算方法によるものではなかったとしても、直ちに誤りがあったとみるべき法的根拠はうかがわれず、75㎡が計算誤りによるものとみることはできない。

(3)明細書等においても納税者の主張の納屋の敷地面積「154.56㎡から上記75.00㎡を除いたもの」が特定事業用宅地等として区分されていたものと認めることはできない。

上記事例のように、選択すべき宅地の面積を過少に申告してしまうと、後で訂正するのは困難です。一団の宅地に用途の異なる建物がある場合の区分は、はじめが肝心といえそうです。

[ 遠藤 純一 ]

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