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TACTニュース
No.963

マンション建替え決議と、転入後売買の3000万円控除適用を巡る裁決事例

1.はじめに

古いマンションを手放す際の譲渡益に対する課税については、住み続けていれば、問題なく譲渡所得課税の特例、いわゆる3000万円控除の適用を受けて、軽減することが可能です。では、借家にした古いマンションをそのまま売却する場合は、どうでしょうか? 
実は古いマンションでは借家の割合が増加する、そんな傾向があります(国土交通省「マンションの政策の最近の動向について」)。こうしたなか建替えが課題になったマンションをいつ売却するか、費用負担の関係で悩む人も少なくない状況です。組合に売り渡す場合でも課税される場合がある点も懸念材料です。
そこで一計を案じて、マンションの建替えについて区分所有者の間で決議がなされ、住んでいる区分所有者の立退き期限が定められたタイミングで、保有する家屋から賃借人を立ち退かせ、自分がそこに舞い戻ってから、売却して3000万円控除の適用をした人(仮にAさんとします)がいました。
ところが、税務署はその適用を認めませんでした。そのポイントの1つは、3000万円控除の適用対象となる家屋について「真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていたもの」とされているのに、Aさんはマンションの建替え決議があって長く住めないことを知っていたと認定されたこと。今回は、この事案について見ます(国税不服審判所令和6年11月19日裁決)。

2.事案の概要

①このマンション1戸はAさんの配偶者が昭和60年に1945万円で購入、平成22年にAさんが相続した。
②Aさんは平成23年に賃貸を開始、令和3年5月まで継続した。
③Aさんは令和3年5月に住民票を同マンションに異動し、同年6月25日に別の住まいに異動した。
④Aさんは、令和3年4月に同マンションを4830万円で売買する契約を締結、引渡しを7月1日とした。
⑤ただし、同マンションを含むこの集合住宅の全区分所有者が明渡しを完了していない場合等、建替え工事までの段取りに不調があった場合は契約解除できる特約があった。
⑥同マンションの管理組合は令和2年12月に臨時総会で建替え決議を可決していた。
⑦Aさんは、令和4年に3000万円控除を適用する旨の期限内申告をした。
⑧所轄税務署は令和5年に3000万円控除の適用を認めず、更正処分等をした。
⑨Aさんは国税不服審判所に審査請求した。

3.審判所の判断

国税不服審判所(以下、審判所という。)は、3000万円控除を定めた法律(措置法第35条第2項第1号)に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、「譲渡者が、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうものと解される」と特例の対象となる家屋についての考え方を示し、「譲渡資産がこれに該当するか否かについては、その者の日常生活の状況やその家屋の利用の実態等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である」としました。これを踏まえ審判所は、次のような主な事実関係を改めて指摘しました。

(1)マンション建替え決議後、2か月ほどで、反対者に対し売渡請求を行い、売買が成立、全員建て替え事業に賛成することとなったこと。
(2)マンション建替え事業の説明会が行われ、資料が配布され、建替え事業に係る売買契約の締結は令和3年4月11日を予定しており、また、各区分所有者は同年6月30日午後1時までに区分所有建物内の荷物を全て撤去し、区分所有建物の鍵を各譲受人に引き渡すこと等が記載されていたこと。

審判所は、マンションの継続的な利用の可能性について次のように検討しました。すなわち上記などから「建替え事業の円滑な進行を妨げる客観的な事情は特段認められない。また、法定説明会を経るなどの手続が行われた上で、建替え決議は法定の要件を充足し可決されており、建替え決議の効力に疑義が生じるような事情も認められない」。また、賃借人との間の契約解除や明渡しについても、Aさんが建替え事業に係るマンションの引渡し時期を認識していたことを示すものと指摘、最終的にAさんが同マンションにつき同日を超えて継続的に生活の拠点として使用することは客観的に見てほぼ不可能であったということができ、そのことは請求人(Aさん)においても、十分、認識していた」と認定しました。
このほか審判所は、Aさんが事実上、このマンションで生活した実態が見られないことなどを指摘し、「真に居住する意思を持っており、継続して生活の拠点として居住している実態があったとはいえない」として3000万円控除の適用を認めなかった税務署の更正処分等を支持しています。  

[ 遠藤 純一 ]

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