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TACTニュース
No.944

インボイス(適格請求書)発行事業者が死亡し、相続財産が未分割の場合の消費税の手続

2024.08.26 消費税

【問】

不動産賃貸業を営む甲は、令和6年7月31日に死亡しました。相続人は長男Aと次男Bの2人です。甲は生前に消費税の適格請求書発行事業者の登録を受けています(AとBはその登録を受けていません)。AとBのどちらかが甲の事業を承継する予定ですが、協議がまとまらず甲の賃貸不動産は未分割状態です。
上記の場合、消費税の適格請求書保存方式(№938参照)においてAとBの必要な手続と、甲の適格請求書発行事業者登録の効力について教えてください。

【回答】

1.結論

(1)適格請求書発行事業者の甲の死亡に伴い、相続人のAとBは「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を甲の所轄税務署長に提出する義務があります。

(2)相続財産(賃貸不動産)が未分割の期間は、AとBがともに相続により甲の事業を承継した相続人と取扱われ、甲の死亡日の翌日から最長4ヶ月間(みなし登録期間)は、AとBが適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者とみなされます。このAとBが適格請求書発行事業者とみなされる措置の適用がある期間は甲の登録が有効で、甲の登録番号が記載された適格請求書の発行義務を負います。

(3)A又はBが甲の事業を承継した場合、みなし登録期間を経過後に適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、登録申請書の提出が必要です。

2.解説

(1)適格請求書発行事業者が死亡した場合の手続

適格請求書発行事業者が死亡した場合は、その相続人は「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を、死亡した者の所轄税務署長あてに提出する義務があります(消費税法(消法)57条の3第1項)。

(2)相続により事業を承継した相続人がいる場合の死亡した適格請求書発行事業者の登録の効力

適格請求書発行事業者が死亡した場合、その登録の効力は[(1)の届出書の提出日の翌日]又は[死亡日の翌日から4ヶ月を経過した日]のいずれか早い日に失われるのが原則です(消法57条の3第2項)。ただし、相続により被相続人の事業を承継した相続人がいるときには、次の特例があります。
相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人(適格請求書発行事業者を除く。)は、相続のあった日の翌日から、その相続人が[適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日]又は[適格請求書発行事業者であった被相続人が死亡した日の翌日から4ヶ月を経過する日]のいずれか早い日までの期間(「みなし登録期間」)において、適格請求書発行事業者とみなされ、適格請求書の発行義務を負います。この場合において、みなし登録期間中は被相続人の登録番号が、その相続人の登録番号とみなされます(同第3項)。

(3)共同相続(未分割)があった場合の登録の効力

相続人が複数いる場合において相続財産が未分割の期間中は、適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、これらの相続人(適格請求書発行事業者を除く)は、その全員が(2)に規定する「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人」に該当するものとされます。この場合において、(2)のみなし登録期間の末日までに相続財産の分割が実行されたときは、適格請求書発行事業者であった被相続人の事業を承継しない相続人は、相続財産の分割が実行された日以後は適格請求書発行事業者とはみなされません(消法基本通達1-7-5)。
例えば、Aが不動産賃貸業を承継し、令和6年11月1日に相続財産である賃貸不動産が分割され、11月25日にAが適格請求書発行事業者の登録の通知を受けた場合は、同年8月1日~11月25日が「みなし登録期間」となり、Aは同期間中の全期間、Bは同期間中のうち賃貸不動産の未分割期間、つまり8月1日~10月31日(分割実行日11月1日の前日)の期間において、適格請求書発行事業者とみなされます。この期間中、AとBは甲の登録番号により適格請求書を発行します。

(4)事業を承継した者の適格請求書発行事業者登録

(2)と(3)の場合において、適格請求書発行事業者である被相続人(甲)の登録は、みなし登録期間後にその効力が失われます。したがって、相続人のA又はBが後継者として甲の事業を承継し、みなし登録期間後も適格請求書を交付しようとする場合は、その後継者が新たに登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があります(消法基本通達1-7-4)。

[ 山崎 信義 ]

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