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No.906

【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

【問】

株式会社X(本店:東京都新宿区)の前代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有していた甲が、令和4年11月に死亡しました。甲の相続人による遺産分割協議の結果、甲が保有していたX社株式は、令和3年より同社代表取締役を務める乙(甲の長女)が全て相続しました。
X社は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)2条の「中小企業者」に該当します。X社株式は相続税評価額が高く、これに係る相続税額の負担が大きいため、X社が円滑化法上の都道府県知事の認定(以下「円滑化法認定」)を受けた上で、乙は相続したX社株式につき、非上場株式等に係る相続税の納税猶予及び免除の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受ける予定です。  なお、乙の夫で乙と生計を一にする丙は、㈱Y(本店:横浜市)の代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有しています。Y社は資本金の額や従業員数が多く、円滑化法2条の中小企業者には該当しません。
上記の場合において、乙は甲から相続により取得したX社株式に係る相続税につき、「相続税の特例措置」の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論

X社の特定特別関係会社であるY社が中小企業者でないことから、X社は「特例認定承継会社」に該当せず、乙が相続により取得したX社株式については相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説

(1)中小企業者要件とは

非上場株式を相続により取得した者が相続税の特例措置の適用を受けるためには、その非上場株式を発行する会社で、円滑化法認定を受けたもの(以下「対象会社」)が「特例認定承継会社」に該当する必要があります(措法70条の7の6第1項)。この特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【(対象)会社の特定特別関係会社が、円滑化法2条の中小企業者に該当すること】があります(措法70条の7の6第2項1号ヘ、措法施行令(措令)40条の8の6第9項、同40条の8の2第10項3号)。これは、中小企業の事業承継支援を目的とする事業承継税制の趣旨を踏まえ、相続税の特例措置の適用対象を円滑化法上の中小企業者、つまり資本金又は従業員数が一定基準以下の会社に限定する要件です。

(2)特定特別関係会社の意義

(1)の「特定特別関係会社」とは、①対象会社(X社)、②対象会社の代表権を有する者(乙)及び③②の者と特別の関係がある者が有する議決権の数の合計が、その総株主等議決権数の50%を超える会社をいいます。また③の「②の(代表権を有する)者と特別の関係がある者」の一つに、「その代表権を有する者と生計を一にする親族」があります(措法70条の7の6第2項1号ハ、措令40条の8の6第7項、同40条の8の2第9項、第8項1号)。よって本問のY社のように、対象会社(X社)や対象会社の代表者(乙)がその会社の議決権を全く保有しない場合でも、対象会社の代表者と生計を一にする親族(丙)が自社の総株主等議決権数の50%超を保有している会社は、対象会社の特定特別関係会社に該当します。

(3)本問へのあてはめ

Y社はX社の代表者である乙と生計を一にする丙が総株主等議決権数の全てを有しており、X社の特定特別関係会社に該当します。Y社は中小企業者に該当しないため、(1)の要件を満たすことができません。X社が特例認定承継会社に該当しないことから、乙が甲から相続により取得したX社株式は、「相続税の特例措置」の適用を受けることができません。

(4)留意点

相続税の特例措置の適用にあたって、対象会社が特例認定承継会社に該当するか否かの判定上、対象会社の関連会社で中小企業者でないものが特定特別関係会社に含まれないかどうかの確認が必要です。
なお、対象会社が特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【特定特別関係会社が上場会社及び風俗営業会社に該当しないこと】があります (措法70条の7の6第2項1号ハ、ニ)。相続税の特例措置の適用にあたっては、この要件を満たすかどうかの確認も必要になります。

[ 山崎 信義 ]

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