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TACTニュース
No.768

【Q&A】相続時精算課税の適用財産の課税漏れと特定贈与者に係る相続税の計算

【問】

(株)Xの前代表取締役のAは、平成20年10月に後継者である子BにX社株式(贈与時の相続税評価額1億円)を全て贈与し、Bはその贈与を受けたX社株式に係る贈与税について相続時精算課税を選択して、贈与税の申告と1,500万円(=[1億円-2,500万円]×20%)の納税を行いました。平成29年3月にAが死亡し、相続人のBがAの全財産を相続してAに係る相続税の申告を期限内に行いましたが、平成30年のY税務署の相続税調査により、平成21年12月にAからBへ現金100万円の贈与があったことが判明しました。Bはその贈与により取得した現金について平成22年分の贈与税の申告を行っておらず、またAに係る相続税の計算にも含めていません。
上記の場合において、Aに係る相続税の計算上、平成22年にBが贈与を受けた現金100万円は、どのように取扱われるのでしょうか。

【回答】

1.結論

平成22年にBがAから贈与を受けた現金100万円は相続時精算課税の適用を受ける贈与財産であることから、贈与税の申告や課税の有無には関係なく、Aに係る相続税の計算上、相続財産と合算されます。

2.解説

(1)相続時精算課税の概要

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合に、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法(相法)21条の9等)。
なお、「相続時精算課税選択届出書」を提出した場合はその撤回はできず(相法21条の9第6項)、その届出書を提出した者(相続時精算課税適用者)は、その贈与者から贈与を受ける財産につき、その選択をした年分以降全て相続時精算課税が適用されます。

(2)相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税

相続時精算課税の贈与者(「特定贈与者」・A)が死亡した場合、相続時精算課税適用者であるBの相続税額は、その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の評価額(贈与時の価額)と相続又は遺贈により取得した財産の評価額とを合計した金額を基に相続税額を計算し、Bに課せられた相続時精算課税に係る贈与税*(相法36条1項又は2項の規定により更正又は決定をできなくなった贈与税を除く。)を控除して算出します(相法同21条の15、21条の16、相続税法基本通達21の15-3)。
なお、相続時精算課税の適用年分以後の特定贈与者からの贈与により取得した財産の価額は、贈与税の申告(課税)が行われたかどうかにかかわらず、そのすべてが相続税の課税価格に算入されます(同通達21の15−1及びその解説)。

(3)本問へのあてはめ

Bは、平成20年のAからのX社株式の贈与につき相続時精算課税選択届出書を提出していることから、前述(1)より、平成22年のAから贈与を受けた現金100万円は、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産に該当します。平成30年時点では平成21年分の贈与税の決定の期限(相続税法36条により原則としてその年分の贈与税の申告期限から6年を経過する日=平成28年3月15日、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた等の場合の贈与税は、その年分の贈与税の申告期限から7年を経過する日=平成29年3月15日)を過ぎており、平成22年のBがAから贈与を受けた現金100万円については贈与税の課税(決定を受けること)はされませんが、上記(2)の通りAに係る相続税の課税価格に加算されます。
なお、この贈与を受けた現金につきBが課されるべき贈与税20万円(=100万円×20%)は、本来は(2)の*に含まれますが、平成21年分の贈与税の上記の決定の期限を過ぎて決定できなくなっているため、Aに係る相続税の計算上は控除することはできません(相続税法基本通達21の15−3かっこ書)。

[ 山崎 信義 ]

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