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No.742

一般社団法人等の税制改正が実務にどう影響するか?

1. 特定の一般社団法人等に対する相続税の課税

一般社団法人等を利用した相続税逃れを防ぐための規定として相続税法第66条の2が創設されました。ここでは、一般社団法人等(非営利型法人及び公益社団法人を除く)の理事である者(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)が死亡した場合に、その一般社団法人等が特定一般社団法人等に該当するときは、その特定一般社団法人等が、その死亡した者(以下「被相続人」)の相続開始時におけるその特定一般社団法人等の純資産額について、その時における同族理事の数に1を加えた数で除して計算した金額に相当する金額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、その特定一般社団法人等に相続税を課税するというものです。

(注1)特定一般社団法人等とは、次のいずれかに該当する場合の一般社団法人等のことをいいます(相法66の2②三)。
①相続開始の直前における同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超えること。
②相続開始前5年以内において、同族理事数の総理事数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること

(注2)遺贈により取得したものとみなす金額とは、次の算式で計算した金額をいいます(相令34①)。

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2. 同族理事(相法66の2②二)とは

一般社団法人等の理事のうち、被相続人、その配偶者又は3親等内の親族、その他その被相続人と特殊関係がある者(被相続人が会社役員となっている会社の従業員等)のことを指します。3親等内の親族というのは、身近なところで言うと、叔父、叔母、甥、姪が含まれ、いとこは含まれません。

3. 個人から一般社団法人等に対する財産の贈与又は遺贈が(以下、贈与等)あった場合の課税の明確化

個人から一般社団法人等に対する財産の贈与等があった場合、相続税法第66条第4項、相続税法施行令第33条第3項の要件(親族が役員のうち3分の1以下であることなど)のうちいずれか一つでも満たさない場合には、不当な減少にあたり、贈与税等を課税することが明確化されました(平成30年4月1日以後に贈与又は遺贈により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用)。なお特定一般社団法人等に相続税が課税(相法66の2)される場合(上記1.)には、その相続税の額から贈与等により取得した財産について、既にその特定一般社団法人等に課税された贈与税等の額は控除することとされています(相法66の2③)。

4. 適用時期

上記1.の規定は、平成30年4月1日以後の一般社団法人等の理事の死亡に係る相続税について適用することとされていますが、平成30年3月31日以前に設立された一般社団法人等については、平成33年4月1日以後の一般社団法人等の理事(理事でなくなった日から5年を経過していない者を含む)の死亡に係る相続税について適用し、平成30年3月31日以前の期間は、特定一般社団法人等の要件となる2分の1を超える期間に含められないこととされています。

5. 実務に与える影響

上記の改正は、特定一般社団法人等の理事が死亡した場合のことを規定していますが、社員が死亡した場合を対象としていません。一般社団法人の社員は株式会社で言えば株主であり、最高意思決定機関です。それにも係わらず課税対象となっていません。また特定一般社団法人等に該当しても同族理事を増やすことにより課税対象額を少なくすることも可能ですし、理事を孫など、相続まではまだ長い時間を要する世代にすることで課税を先延ばしにすることも可能です。さらには、理事を3親等内の親族等の範囲外(たとえば、いとこなど)の者にすることで、特定一般社団法人等から外すことも可能となります。このように少し考えただけでも、課税逃れとなる方法はいろいろと考えられます。
今後の実務においては、一般社団法人等を利用した課税逃れが出るたびに、課税当局がそれを防ぐといったいたちごっこのようになってしまうことが懸念されます。一方で本来の一般社団法人等の利用方法が見過ごされ、思わぬ課税がされてしまうのは本末転倒です。今後の一般社団法人をめぐる税制の在り方について注視していく必要があると思われます。

[ 平松 慎矢 ]

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