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No.736

非上場株式等に係る贈与税の納税猶予・免除制度の特例における"雇用確保要件の弾力化"

1.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予・免除制度における雇用確保要件

(1)贈与税の納税猶予の概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたもの(「認定贈与承継会社」)の株式等を、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者として「経営承継受贈者」に当たる場合、その経営承継受贈者が納付すべき贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。納税猶予税額は、その贈与者の死亡等の事由が生じた場合、原則、その全部又は一部が免除されます(同第15項)。
経営承継受贈者が上記の贈与税の納税猶予税額が免除される時までに、認定贈与承継会社が後述(2)の雇用確保要件を満たさなくなった等の一定の事由(全部で17あります。)が生じた場合、原則として納税猶予の期限が確定(="納税猶予の打切り")となり、その事由に応じた各期限までに、納税猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要があります(同第3項等)。

(2)雇用確保要件とは

雇用確保要件は、納税猶予制度の創設時の中小企業における雇用確保という政策目的のため、認定承継会社における経営贈与承継期間(*)中の常時使用従業員の数の平均値が、先代経営者から贈与を受けた時の常時使用従業員数の8割以上の数を保つことを(いいかえれば、贈与時の常時使用従業員数の減少が2割以下であることを)、上記(1)の贈与税の納税猶予を継続して認める要件として求めるものです。このため雇用確保要件を満たさない場合は、その経営贈与承継期間の末日から2ヶ月を経過する日が納税猶予の期限となり、同日までに納税猶予税額の全部又は一部を納付する必要があります。
(*)「経営贈与承継期間」とは、原則として、その非上場株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます。

2.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予・免除制度の特例における雇用確保要件の弾力化

(1)雇用確保要件を満たさない場合の納税猶予の継続

平成30年度税制改正で創設された「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例(措法70条の7の5)」においては、最近の中小企業における求人難を背景に、前述1(1)の雇用確保要件が納税猶予の打切り事由から除外されました(同第3項かっこ書)。このため、その雇用確保要件を満たさない場合であっても、納税猶予の期限は確定せず、納税猶予が継続されます(なお非上場株式等に係る相続税の納税猶予・免除制度の特例でも、同様の取扱いとなります(措法70条の7の6第3項かっこ書))。

(2)都道府県知事への報告

上記(1)の雇用確保要件を満たさない場合には、その理由について都道府県知事の確認を受ける必要があります(経営承継円滑化法施行規則20条第1項)。
この確認を受ける場合には、「特例承継計画に関する報告書」を都道府県に提出する必要があります(同第3項)。なお、雇用確保要件を満たさなくなった理由について認定経営革新等支援機関の所見の記載があり、その理由が経営状況の悪化である場合又は認定経営革新等支援機関が正当なものと認められないと判断したものである場合には、特例承継計画に関する報告書に、その認定経営革新等支援機関による経営力向上係る指導及び助言を受けた旨の記載が必要です(同かっこ書)。

(3)(2)の報告をしない場合等の納税猶予の打切り

都道府県知事が(2)の報告に係る確認をした場合には、特例認定贈与承継会社に確認書を交付します(同第14項)。「特例承継計画に関する報告書」を提出しない、又は提出した報告書の記載内容に不備がある場合には、確認書が交付されません。
この確認書と「特例承継計画に関する報告書」の写しは、納税猶予の適用を継続して受けるための届出書(措法70条の7の5第6項)に添付すべき書類として定められています(措法施行令40条の8の5第20項5号、措法施行規則23条の12の2第15項6号)。これらの書類を税務署に提出できない場合には、届出義務を果たさないことによる納税猶予期限の確定(="納税猶予の打切り")となります(措法70条の7の5第8項)ので、注意が必要です。

[ 山崎 信義 ]

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